番外編エルスとギンロウと・・・
エルスとギンロウのちょっと前のお話です。
私の名前はエルス。学園グラントの騎士科に在籍している。これは私がユフィと友達になり、
少ししてからの話だ。この時の私とギンロウの関係はあくまでライバルだった。
彼に対する認識も、軽薄に見えるが強い男でスケベだがちょっと気になる異性という程度だった。
しかしこの時起きた事により私の彼に対する思いは、少し意味合いが変わっていった。
私とギンロウは、騎士科の実習で学園近くの森に来ていた。内容は二人一組で
指定の材料を集めるというものだった。
「さっさと材料を集めようぜ!」
「そうだな!まずは・・・」
私が指示を出す形で材料集めを進める。そして短時間で材料集めは終わり、後は学園に帰るだけだった。そんな中、私はふと思い浮かんだ疑問をギンロウに聞いてしまった。
「ギンロウは私の事、好きか?」
言って後悔するも、やはり気になって彼を伺った。ギンロウは考えるそぶりも見せず答えた。
「好きだ!それがどうかしたのか?」
あまりにはっきりとした答えにドキッ!としてしまう。「どうかしたのか?」と聞かれても、
思ったことが口から出てしまっただけで大した理由は無かった。
「別に・・・ただ聞いてみただけだ。ちなみに私のどんな所が好きなんだ?」
これも興味本位の言葉だった。昔から私に好意を寄せてくる男は、私の家柄や容姿に惹かれるだけの
奴らだった。だから気になったのだ。ギンロウが私のどういう所を好きなのかを。
予想に反してギンロウは今度は考え込む様子を見せる。正直な話、彼なら直ぐに
答えてくれると思っていたので、ちょっとショックだった。そして彼が口を開いた。
「まずは・・・エルスが真面目に誰かの相談を聞いている時の横顔、それからユフィといる時の
いつもより柔らかい笑顔だろ。んで、戦っている時の本気の顔、俺を怒っている時の顔。
剣が強い所も好きだし、俺を怒って吹き飛ばしてもちゃんと心配してくれる優しい所も好きだ。
あと、可愛い物が好きなのに好きじゃない振りをして後で後悔している所もいいな。
え〜と、それから・・・。」
「ちょっとまってくれ!ストップだ!」
「なんだよ・・・エルスの好きな所、まだまだあるんだけど・・・。」
「分かったから!もう十分に伝わった!」
私は顔を真っ赤にしてギンロウの言葉を止めた。彼は最後にこう言ってくれた。
「まあつまり、エルスと出逢ってから全ての時間が楽しかったんだ!だから色んなエルスが好きだし、
これから知る俺が知らないだろうエルスも好きになると思うぜ!!」
嬉しかった。彼が私の家柄や容姿ではなく、私自身を好きだと言ってくれているのが
伝わってきたから。ただその時の私は自身の気持ちに気付くのも、ギンロウの「好き」が
友人としてなのか、それとも別の意味を持つのか知るのも怖くて思わず誤魔化してしまった。
「と、とにかく、もう帰るぞ!」
「自分から言い始めたんだろ・・・ちなみにエルスは俺の事好きか?」
そう言われドキッとした。自身の気持ちを考えないように誤魔化そうとしたのに、
改めてそう問われて思わず考え込んでしまう。しかし、私はこのとき忘れていた。
ここが魔物の出る森でほんの少しの油断が命とりになる場所だとゆうことを。
「「エルス!!」」
ギンロウの叫び声が聞こえると同時に私は誰かに抱えられて倒れこんでしまう。
私が何が起きたのか気付いたのは、一緒に倒れた何者かが上からどいた事により
私の目に魔物が映ってからだった。私を抱えて倒れたのは当然ギンロウだったが、
その背中に傷を負っていた。恐らく魔物の攻撃に気付いていなかった私をかばってついた傷だ。
「ギンロウ・・・すまん、私をかばったせいで・・・。」
「そうゆうのは後回しだ!今は奴をたたくのが先決だろ!」
ギンロウの言葉にやるべきことを思い出し、魔物の方を向き剣を構える。
魔物は油断しなければ問題なく倒せた。私たちはギンロウの傷の手当の為、
急いで学園へ帰還した。結果的にギンロウの傷は大した事ではなかった。
しかし私の油断でついた傷だ、だから償いをする必要があると考えた。
「なんでもする!私の事を好きにしてくれ!!」
「いや、この程度の傷でそんな事いわれてもな~・・・。」
「いいから言え!そうじゃないと私の気が済まない!」
「わかったよ!んじゃ~・・・。」
ようやく納得したギンロウに要求は意外なものだった。
私たちは学園内のあまり人が来ない中庭に来ていた。
「本当にこんな事で良いのか?」
私はギンロウに膝枕をしていた。ギンロウは気持ちよさそうに横になっている。
「まあね・・・前からやってみたかったんだ!」
そう言うギンロウを眺めながら、改めて自分の気持ちを考えてみた。
軽薄だが強い男で、スケベだがちょっと好きな異性。変わったのはほんの少しだけ。
だけどこの日から私の思いは日々強くなっていく。そしてあの事件でようやく自分の思いに気付く。
そして今、目の前には軽薄で強くてスケベだけど大好きな人がいる。
今日はデートの日。楽しいデートになるといいな♪
次回はユフィの話の予定です。