第十話片手の騎士と探索と・・・
今回は最後の方で精霊が登場します。
「微精霊たちが活性化しています!大精霊かそれとも上位精霊かは分かりませんが、
確かに上位以上の精霊がいるはずです!」
宿で一泊した翌日、さっそく一行はドボール山で精霊の探索を行っていた。
探索開始からすぐに、かなりの力を持った精霊の居た痕跡が見つかった。
それを報告するユフィの顔は若干、赤くなっていた。と言うよりも、女性陣全員が
周りの気配に注意しながらも照れたように顔を赤らめ歩いている。
そんな一行の先頭をなぜかボロボロになったギンロウがいた。
「そいつはよっかった!けどよ~・・・。」
言いながら皆を見渡すギンロウに対しエルスは、
「だから、すまんと謝っただろう?!それに昨夜は我々が拒まなかったからとはいえ、
貴様も調子に乗り過ぎだ!!」
と顔を赤らめながら睨む。今朝起きたとき、エルスは自己嫌悪に陥っていた。
一緒の旅行というのもあった。思わぬ事態に一緒に部屋で寝ることになった。
自分も周りの女性もそんな妙な状況で一緒のベッドでギンロウと眠ることになってしまった。
事前にギンロウがエロいことをすると宣言していたのを拒まなかったというのもある。
しかしながら、三時間ちかく胸を好き放題させてしまったことにさすがのエルスも
自分自身を嫌になってしまいそうだった。別にギンロウに触られる嫌なわけではない。
ただ基本的に真面目なエルスは旅行中の妙なテンションに流された自分を恥じた。
そしてそんな自分自身に対する怒りは、朝起きて満足そうなギンロウに向けられた。
こうして、ギンロウはボロボロな状態で探索に出ることになった。
ちなみに、他の女性陣が顔を赤らめているのも朝起きたときに昨夜の事を思い出し、
探索が始まってからもいまだに引きずっているためである。
そんな中、精霊の手掛かりを見つけることが出来た。
「コホン!では微精霊が活性化している場所を追いかければ、その精霊を見つけられるので御座るか!」
話の流れを変えるため、一度咳払いをしユフィに問うカエデ。
「はい!しかし、時間がたつと収まってしまいます。
まだこの近くに居てくれればよいのですが・・・。」
と答えるユフィ。そんなユフィに
「それじゃ・・・急いで探そう・・・?」
とネートが言う。その意見にみんなが顔を見合わせ頷きあう。
「よ~し!んじゃ、改めて気合を入れて精霊を探すか!!」
ギンロウの掛け声で精霊探索を再開しようとした。そんな時、森から「ガサ!」という音がする。
皆その方向を向いた。向いた先には木々を揺らしながら魔物が姿を現した。
全員の行動は素早かった。ギンロウ、エルス、カエデは自分の得物を構え
魔物と距離を取りながらも何時でも攻撃できる位置にそれぞれ移動した。
ユフィはもっとも遠くに移動して魔法の詠唱する開始する。
ネートはユフィの近くで彼女を守りながら、新たな魔物が出ないか警戒する。
現れた魔物はビックベアーと呼ばれる熊をより大型にして尚且つ凶暴にしたような魔物だ。
素早さはないが力は強い為、攻撃を受けるのは大変危険である。相手は一体だけなようだ。
最初に動いたのはギンロウだった。正面からビックベアーに攻撃を仕掛ける振りをして
ビックベアーの攻撃を誘う。ベアーは大きな右手と爪をギンロウめがけて振るう。
その動きを予測していた彼は素早く後ろに引いて躱す。攻撃が空振りして隙だらけのベアーの脇腹を
エルスか飛び込んで切り裂く。痛みに仰け反るベアーの背を、いつの間にか移動していたカエデが
槍で突く。痛みに苦しみながらも後ろを振り返ろうとしたベアーにユフィの風属性の魔法が炸裂する。
突然巻き起こる風に全身刻まれて、倒れるベアー。倒れたベアーになお警戒する一同。
そしてベアーが動き出さないのを確認すると安堵した様子で皆集まる。
「とりあえず・・・周りにほかの魔物はいないみたいだよ・・・・。」
そう言いながらも周りを警戒し続けるネート。猫の獣人である彼女は周りの気配をや音を
察知するのがうまい。実際、ドボール山までの道中は彼女の能力で、
魔物との戦闘は一度として起きなかった。今回の突然の襲撃は昨夜の件もあり注意が散漫だったようだ。
そんな彼女の意見に、一同は再度安堵しながらも、探索を再開した。
ちなみに、一匹だけだったとはいえ、一同に簡単に倒されたように見えるビックベアー。
しかし、この魔物の毛は柔らかいが衝撃や斬撃にもそして魔法にもある程度、耐性が有る。
これらを簡単に切ったり貫いたり、魔法で刻んだりする彼女らの強さは異常である。
ギンロウにしても囮役をやっただけに見えるが、ベアーの攻撃の速さは移動速度と比べ
段違いに早い。特に真正面を攻撃するときの速さは、攻撃した後の隙が大きい分かなりの速さだ。
それを軽く躱すギンロウも色々並はずれているといえる。実は、学校では生徒たちに、ビックベアーの
対処法として逃げることを教える。つまり学園の生徒レベルでは危険な魔物という訳だ。
そんな魔物を自分たちは傷一つつかず倒してししまった。あまりに強すぎる一行だった。
そんなこんなでビックベアーの襲撃以降はネートの能力もあり、魔物との戦闘もなく
精霊の痕跡を追うことが出来た。そして、
「恐らく、この中に精霊がいるはずです・・・。」
少し自信なさげだが精霊がいるであろう洞窟を指さし告げるユフィ。
「こんな所に洞窟があったのか!ネート、この中から魔物の気配は有るか?」
驚きながらもネートに問いかけるエルス。ネートは首を横に振ると
「居ないと思う・・・。他の生き物の気配もしない・・・。」
そう答える。その答えに安心した様子のユフィは
「そうですか・・・強すぎる精霊がいるような場所は、魔物も動物も畏怖し近寄りません。
この洞窟に精霊がいる可能性は高くなりました。」
と話す。一行は念のため洞窟内を注意しながら慎重に、中を進んでいった。
洞窟内は何故か灯が要らないほど明るく一本道だった。三十分ほど進むとユフィが
「みなさん!精霊の気配が濃くなってきました。しかし・・・これは・・・?」
どこか訝しむような声色で告げる。そんな様子にカエデが問う。
「どうしたで御座るか?何か問題でも?」
その問いにユフィは
「ええ・・・何と言いますか・・・。恐らく精霊は私たちが洞窟内に入った瞬間から
私たちの存在に気づいてたはずです。いきなり精霊の住処に入ってきた私たちを
警戒し気配を弱めるならまだしも、それどころかむしろ強めています。
まるで誘っている・・・?」
と語るが、精霊の様子に納得いっていないようだ。そんな彼女にギンロウは
「んで、このまま進んでも問題ないのか?」
と問うた。ユフィは今度ははっきりと
「はい!それは問題ないと思います。もし、近づいてほしくないのであれば
入れないような処置をしているはずです。このまま進みましょう!」
と答えた。そして皆、洞窟内を進んでいく。しばらくして、前方に洞窟内を照らす明かりよりも
さらに強い光が差している場所があった。そこに一歩踏み入れた一向。
そこは開けた場所だった。天井も高く横にも広がっていたがその空間の先には道が無かった。
どうやらこの場所が終着点だったようだ。そして、その空間の一番奥にそれはいた。
その存在は長い黒髪を揺らしながら静かに佇んでいた。顔立ちはどこか神秘的ながらも美しい。
スタイルもよく何より爆乳と言っていいほどの胸が目立つ。
一見すると精霊には見ない、唯の人間の様だ。しかし、それ以上に不思議な美女が確かにそこにいた。
次回は精霊との契約の話です。