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其之六 ライク・ア・カルマ

明日から仕事です。キビシイです。

 人間は誰しもそうかもしれないが、ショウジ・ショオジは子供の頃に死に掛けたことがある。

 子供には理不尽なほどに死の危険がある。

 それは大人の不注意だったり、子供自身の無知だったりする。

 そのときのショオジの危機が大人のせいか子供のせいかはわからないが、とにかく高速道路の近くで、ショオジは死に掛けた。

 「よお、危ないだろ。あんな所にいたら」

 「…はい」

 法定速度の時速八十キロで走る核融合電気自動車の前にショオジが飛び出して、それをオオトリ・オトヤが救った。

 オトヤにとっては目障りなケダモノ同然のンヴン人だが、それ以上に姉の心を癒す力を持っているケダモノ、救わざるを得ない状況だった。

 「お前が死ねば、曾婆ちゃんだって悲しむだろ? な?」

 「はい…」

 当時のオトヤは地球連合から四回目の指名手配を受けており、次の世界的危機まで逃亡者をしている折だった。

 世界的テロリストの出現やバイオハザードの発生など、世界がどうしようもない事態になれば、指名手配の解除やら姉一族の身柄の安全やらで、世界を救うサイボーグ版・ジェームズボンドになる。

 ちなみにサイボーグ版・007と書くと石ノ森章太郎の方になる。グレートブリテン。どうでもいい。

 「じゃあな。死ぬなよ、絶対死ぬなよ…次に飛び込んだら(・・・・・・)、助けないからな」

 貧乏ゆすりとかと同じで、人間はヒマになると何かで遊びたくなる。

 サルの時代から、DNAレベルで霊長類は同類をオモチャにして遊ぶ。

 別に特別なことでもなく、ショオジは言葉を交わすよりも多く、同級生から殴られていた。

 世界というのはいきなり変わる。殴られ続けている間にショオジの世界は変わった。

 「…もうちょっと、生きてみっかな」

 自殺を試みてオトヤに出会って。

 右の頬を殴られたら左の頬を差し出す前に殴られていたショオジは、右の頬を殴られる前にクロスカウンターを合わせる生き方を決めた。

 「かっこよく…生きられるかな」

 少なくとも、かっこよく死ぬよりも、かっこよく生きるほうが簡単だという、ただそれだけのことに気付いた。






 「ヒイィイイイイッ、ハアアアアアッッ!」

 現在。

 獅子色ロボの流星群のようなミサイル郡の中をショオジはすり抜け、躱し続ける。

 風になるというのは月並みな表現、いや、この際だから木星並みとでも云うべきか。

 本職の木星波乗りショオジのかつてない興奮は、彼の先天的センスと後天的経験を極限に迫る勢いで引き出していた。

 ヘッドフォンはCNを伝え、影も踏まれず、捉えることもできないほどのスピードで避け続ける。

 彼はカッコイイかどうかは別として、とにかく強すぎるくらい生き抜いていた。


 「当らねええええええッ! 踊る! 踊れる! なんだなんだっでぃ、だだってぃっひぃいいふうぁぅっはァアアアッッ!!」

 「避け続けながら聞いてくれ、ショオジ」

 「シャァアアアラァアアアップ! 喋れぇあぁああ! 聞かねっ、この攻撃みたいに効かねゥッ!


 「喋るぞ。この機体とオトヤの機体には共に五次元バリアが搭載されている。五次元バリアは空間の縦軸エネルギーであるスカラー波を応用した技術で空間に五次元の障壁を発生させる。絵に描いた拳銃(二次元)が我々(三次元)を傷つけられないのと同じで、五次元バリアは我々(三次元)の攻撃を受けない。しかし三次元の我々が二次元の拳銃を破壊するには絵を描いた三次元である紙を破くなど三次元的な破壊しかできないのと同じで五次元障壁には攻撃能力は皆無だ。とにかく五次元障壁能力を持つこの機体やオトヤの機体を倒せるのは徹障弾(バリア・ピアシング)しかない。徹障弾は徹甲弾(アーマー・ピアシング)が装甲に装甲をぶつけて突破するように、五次元障壁を部分的に五次元障壁で中和する。だから鉄血部隊の機体を破壊できるのは鉄血部隊の機体しかなく、オトヤのミサイルは耐えられないと考えてくれ。更にオトヤの機体には重力子の高速回転によって質量を中和した圧縮ミサイルが搭載されていて弾数は三十四那由他。事実上は無尽蔵だと考えてくれ。そしてこちらには徹障弾は搭載されていない。この機体では五次元的破壊力が発揮できるのは翼に装備されたの光除扇(エーテル・フィン)だ。縦軸エネルギーと横軸エネルギーを対消滅させているマルスニウム炉心を使って爆発的破壊力を発揮する。タイミングは俺が操作するからショオジは翼を敵に当てる事だけを考えてくれ」


 「…何云ってんのか、ワカンネ」

 「とにかく相手の攻撃を避けてくれ。こっちの攻撃技は翼での体当たりだけだ」

 「オフコォオオオス! シンプルで良いぜ!」

 ショオジはヘッドフォンの音量を上げて、真空無音の宇宙空間を飛び交う全天からのミサイル攻撃の中、センサーが音として置き換えたCNを子守唄のように聞く。

 この子守唄は精神が落ち着く。落ち着くと同時に盛り上がる。

 高揚する自分を客観的に見つめながら、ショオジは回転を加えてミサイルの間を縫って避けきってみせ、次なるミサイルの雨の中に飛び込む。

 だが、オトヤもただミサイルを撃っているわけではない。

 オトヤの機体にはミサイル発射時の反動を完全に中和する機能が複数付いているが、そのほとんど使っていない。

 慣性が大きい宇宙空間で、オトヤはあえてミサイル発射時の噴射力を機体を動かす推進力として使い、ミサイルの射出速度や炸薬も一発ごとズレを作ることで理想的な時間差を作る。

 だが当たらない。理不尽なほどに当たらない。

 対するショオジは木星重力を感覚的に推量し、あるときは重力を振り切り、あるときは重力に従うことで不規則で読めない動きを体現していた。

 「バケモノか。コトリ、お前の曾孫はっ?」

 「…姉さん…あんたの…産んだのはやっぱりバケモノだよ、コイツは…っ!」

 別の機体で別の立場に居ながら、ダンとオトヤは同じ感想を抱いていた。

 ありえない。常識で考えなくてもありえない。

 当初はダンが腕と足を失い、運転が不可能になったための苦肉の策としてショオジにパイロットを任せた。

 そんな中、ショオジは木星波乗りとしての卓越した経験、命の掛かった状態だとしても、最高のパフォーマンスを発揮しすぎている。

 こんな操縦は電子チップの演算能力を持つダンだとしても不可能な次元での回避行動であり、明らかに人類の領域を超越している。



 戦闘中は、バイ○トン・ウェル的な異世界にいるときと似ている。その異世界では普段は考えもしない空想めいた思考がしばしば発生する。

 ダンとオトヤ、義兄弟のテレパシー的な直感的直観もまさしくそれだった。


 (異なるもの同士が交わるとき、純然としたオリジナリティが失われる代わりに新たな特徴が発生することが多々ある)

 (義兄さんのくれた動物辞典に書いてあった。ネコ系の異種交配で発生するライガーとかレオポンは、元の肉食獣よりも大きくなったりする)

 (俺の柔術にしても、芸術にしても、進化と進歩とは交わりと淘汰によって発生する)

 (ロットワイラーをベースに様々な犬を掛け合わせ、ある牧師が完成させた犬の名前はドーベルマン、最強の正方四角形の犬)

 (ンヴンと霊長人類。このふたつの掛け合わせは、何かを発生させている?)


 「これは…ここで消さなきゃならない、この小僧は…“何か”だ。世界を破壊する何かだっ!」

 焦燥はオトヤの攻撃のバリエーションを増やした。

 だが、その攻撃のパターンは追い詰めることにはならない、そのリズムはオトヤと同じ波長だからだ。

 「この音程とリズムは…ルードヴィッヒの第五番ッ! 聞くまでもないくらい聞きすぎた名曲ゥ!」

 完全同調からの完全すぎる回避、一気にショオジの操作によって脚付き戦闘機が獅子色ロボを捉えた。

 ミサイルの発射角からは完全に脱し、脚付き戦闘機の体当たりが獅子面ロボへの攻撃体勢を整える。

 「んなぁあああっっ?」

 「じゃぁあっ、っしァアアャヲあああっふぁああ! ウンメェエエエエイっ!」

 ダンの操作に従って、翼の先端エッジ部分に組み込まれた光除扇(エーテル・フィン)が光り輝く。輝く刃、フォトンエッジ。

 それは獅子色ロボの五次元バリアを悠々と突破し、オトヤの乗るコクピットへと直接切りこんだ。

 鉄血合金だろうがなんだろうが、光除扇の前ではただの物体にすぎない。

 「当たればなぁっっ!」

 コクピットまで切り込み、文字通りオトヤの目の前(・・・)まで接近した輝く翼端、しかしそれを真剣白刃取りの要領で獅子面ロボは保持している。

 「大して驚いてないようだね、義兄さん?」

 「六十七年間の間にやってたんだろ、何年も地道にロボットで刀を取る練習」

 「備え有っても憂うことはあるけどさ、とにかく無駄にならなくて良かったよ」

 無線機も何も使っておらず、お互いの声は聞こえないはずだが成立した会話。

 オトヤが自らの機体を強化するだろうというのはダンも予想はしていたが、それでも他に取れる攻撃手段がなかった。

 勝負の世界には常々存在する、読めはするが防げない絶望的状況、それがこれだ。

 「ショオジ、一回離れろ。今なら近すぎてオトヤはミサイルを使えない。距離を置いてから再生能力が間に合わない角度から再度、攻撃を仕掛ける」

 「黙れ鉄ジジイ。わかってるだろ、それは負けフラグだ」

 脚付き戦闘機が加速を始める。

 機首にオトヤの獅子色ロボをくっつけたまま。

 「待て。ショオジ、どうするつもりだ?」

 「盛り下がること云ってんじゃねぇ、この機体…もっとスピード出るんだろ、さっさと出せ」

 ダンは伝えていない事実。ただショオジは機体の操作性から感覚的に機体のMAXスピードと、今現在の速度との差分を感じ取っていた。

 抑えられているパワーから、ダンがそれを伝えない理由を察した。

 「理由は…判っているはずだ」

 鉄血部隊のロボットには、重力子の高速回転によって肉体にかかる負担をかなり高い割合、パーセンテージで軽減できる機能がある。

 木星重力と慣性の法則を説明すると長くなるが、体感するにはエレベーターの中でスクワットをすると実感してもらえる。肉体が元の位置に取り残され、その負荷が発生する。

 「俺の身体が耐えられない(・・・・・)んだろ。木星波乗りってだけでも加速で身体が参るからな。それ以上だろ」

 「わかってるなら、なぜ加速している! 一度離れろ、次の攻撃の機会はある!」

 「曾婆ちゃんの弟君は、ゴルゴが狙撃の達人だったり、宮本武蔵が二刀流の達人っていうのと同じで、ミサイル発射の達人。

  一回離れたら、もう近づけない。さっきの攻撃パターンはもう使ってくれない!」

 オトヤの行動を読めても防げない。それが現実。

 確かにショオジの方がスピードで勝っており、小手先の超速旋廻(マニューバー)を使えば回避はできるだろうが、攻撃は出来ない。防御を主体にオトヤが延々とミサイルを使い続ければ、待っているのはショオジの憔悴によるミス待ち。

 「今しかない(・・・・)。一度離れたらもうコイツに近づけなくなる。加速しろォ、ダン!」

 ショオジの決意も揺るがない。

 ここで退がっても降伏してもショオジには生き目はない。決死だからこその捨身、捨身だからこそ生存への可能性が見出せる。

 言葉もなくダンは最速への操作を加える。

 「リミッター解除完了、」

 「ィーィイイイイァッ!」

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