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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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フロントガラスに雨粒が当たってきた。それはあっと言う間に激しい雨に変わった。


梅雨の終わりの土砂降りのようだ。俺はワイパーレバーを高速に切り替えた。




・・・あの日も激しい土砂降りだった。




6年前の高校入学式。


新調した黒い学ランで入学式を待っていた教室に、ずぶ濡れの生徒が入ってきた。


「なんかいろんなヤツがいるな」と思っていると、そいつが隣の席に座った。


「ここの場所がわからなくなっちまって、頭来てカサ叩きつけて捨ててきたんだよ」


聞きもしないのにそいつは笑いながら俺に言った。


「変わった野郎だな」と思いつつも、俺はそいつに興味を持った。


それが園部俊之だった。


それから俺等は急速に仲良くなり、行動を共にした。


大して親しくもない周囲からは「乱暴で短気なヤツ」としか見られてなかったが、陶芸や彫刻に詳しく俺の知らない世界のことをたくさん知ってて、話せば話すほど奥行きを感じる男。


・・・トシ家族のアパートには頻繁に入り浸ってた。


木造の古い2DKに母親と妹と3人暮らし。


母親は昼も夜も働きに行ってて顔を見ることは少なかったが、俺の顔見るたびに「山浦くん、いつもトシと仲良くしてくれてありがとね。」なんて言ってた。


疲れきった顔に無理矢理微笑みを浮かべて。


たまにカレーライスを作ってくれて、4人で食べた。


園部家ではカレーにソースを掛けて食う。


俺は初めてだったがその味がたまらなく旨くて、今でもボンカレーにソースを掛けて食う。


「俺さ、お袋にあんまし迷惑かけたくねえから、スタンドでバイトすることにしたわー。」


高3になったばかりの頃、トシはスタンドでバイトを始めた。


・・・それからひと月も経たないうちに、トシのお袋は肺炎をひどくして病院で死んだ。


働きづめで苦労苦労ですり減らし、終わってしまったトシのお袋の人生だった。


葬式で涙をこらえているトシと美弥の姿を見ながら、俺は涙をこらえられなかった。





・・・トシのアパートに着いた。


201の部屋に灯りはない。駐車場にトシの白い軽自動車の姿もない。


外付けの縞鋼板の階段を登り、部屋の前に立つ。ドアの郵便受けには何も挟まっていない。


「ビー、ビー」と旧型の玄関ブザーを鳴らしても何の応答もない。


左上の電気のメーターは、弱々しく回ってるだけだ。


階下の部屋から子供のはしゃぎ声が聞こえてきた、そして父親らしき大人の声も聞こえてきた。


「早くネンネしなきゃ鬼が来るぞー!」





俺は土砂降りの中、クルマに乗り込んだ。



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