78 最終話
プレジデントと俺は隣の市との境界の橋を駆け抜ける。
銃弾は内臓のどこを傷めたのか判らないが、気分はますます悪くなる。全身から脂汗が噴き出し、アタマの中が渦を巻いているように平衡感覚がなくなってきた。
失血した影響だろうか、視界の焦点が合わなくなり左耳が聴こえなくなる。
俺は無性にタバコが吸いたくなった。
・・・朦朧としたアタマに死んだ親父の顔が浮かび上がった。
「祥司、やると決めたんなら今すぐやれ。明日なんて言ってたらいつになっても出来やしねえ。・・・それとな、やると決めたんなら死ぬまでやり通せ。」
土方と百姓暮らしの真っ黒な皺だらけのツラで、安い二級酒に酔うと口癖のように俺に説教した親父。
「・・・俺を呼んでんのか?親父。」心の中でつぶやく。
石山は自動車電話で援護を呼んでるに違いない。俺はアクセルを全開に吹かす。
そいつらが来る前に・・・俺自身がくたばっちまう前に・・・。
合わない焦点は左目を閉じるといくらかマシになった、そのままひたすらプレジデントの割れたテールを追いかける。
クラブマンの前輪がバンパーに接触するギリギリまで近づき、俺は右ポケットをさぐり「パイナップル」を取り出した。
欠けた前歯でピンを抜いて、プレジデントのひび割れたリアガラスに叩きつける。
手榴弾はガラスの一部を砕きそのまま車内に吸い込まれる。・・・同時に俺は力尽き、視界が白っぽくなってきた。
爆風とともにプレジデントの破片が全身に突き刺さる、同時に俺の身体はクラブマンから切り離されて吹っ飛ぶ。
身体が煙のように軽くなり空に舞い上がる。きっと舞い上がってるはずだ・・・。
「・・・トシ、死んでもいいから命がけでなんかやるってことが、生きてるってことなのかもしれねえな。」
俺は今まで味わったことのない快楽を感じる。・・・たぶん今も舞い上がってるはずだ。
遠くに、昇りはじめた朝日が見えた気がした。
完
「貫徹と破滅」
ご愛読ありがとうございました。
本作品の大半は私が運営するロックバンドのホームページ上で、2010年6月~2011年1月の間 連載したものに加筆・訂正をして、今回このサイトに投稿したものです。
私は、昔から愛読している大藪春彦氏・北方謙三氏・生島治郎氏・笹沢佐保氏の小説にハマリこんで以来、「いつか、俺みてえなもんでも何か書きてえ。」と思い続けていました。
そして「とりあえず自分が読みてえものを思うままに書いてみよう。」と、いきあたりばったりで書き出したのがこの物語です。
昭和の終わりの地方都市で生きる若者・・・それはやはり自分自身が多大にオーバーラップしてしまいましたが、同時に当時の自分に潜在していた感情やエネルギーみたいなものがリアルに蘇った気分でした。
「貫徹と破滅」・・・実際の私はそうでなかったからこそ42歳の現在、こうして文章に出来たわけですが。
最後の最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。感謝です。