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・・・俺は呼吸を止めて静かに銃爪を引く。
弾かれたように銃身が後退する衝撃が全身に伝わり、銃口が踊った。
静寂に包まれた夜明け前の街に轟音が鳴り響き、木霊が波のように四方に拡がっていく。
俺はスコープから眼を逸らさなかった。
銃弾は義彦の喉元に叩き込まれ、衝撃を喰らった身体は2mほど後ろの壁まで吹っ飛んだ。
背中から飛び散った血や肉片とともにコンクリートの壁に叩きつけられ、そのあとズルズルと倒れ込んだ。
その動きはもはや生き物ではない、一瞬にしてヤツは血まみれの人形と化した。
・・・俺は素早くコッキングレバーを起こし手前に引く、「ピーン」と空薬莢が弾けて足元に落ちる。そのままレバーを押し戻し、次弾をセットしてスコープを覗く。
倒れ込んだ義彦は微動だにせず、その隣にいた一彦は大きく目と口を開いたままよろめき、尻餅をついたようだ。
・・・ヤツの身体がプレジデントの陰に隠れてしまった。
その瞬間、運転席のドアが開き長身の運転手が飛び出してきた。そしてクルマの左後部に回りこむと、一彦を抱きかかえて起こした。
俺はその瞬間を狙って、銃爪に指を掛ける。
だが、運転手は素早く後部ドアを開き、一彦を車内に押し込もうとしている。
・・・俺はライフルを放り出し、屋上のドアへ駆け出す。ドアを開けると、真っ暗な階段を飛び降りるように駆け下りる。
2階の廊下の灯りがもれていたので、残りの5段ほどを跳躍して着地した。途端に叫び声がした、目の前に小柄な看護婦が口元に手を当てて震えている。
構わずに1階まで飛び下り、薄暗い受付のロビーを駆け抜ける。暗がりに人影があったが、慌てて俺をよけた。
すれ違いざまに見えた白衣の男は多分、当直の医師だろう。
・・・真奈美が開けてくれていた裏口のドアを開けて、うずくまってるクラブマンまで駆け寄る。
シートをまたぐと同時に付けっぱなしのキーを回し、セルを回して蹴飛ばされたように走り出す。
狭い道路を抜け、プレジデントが停まっていた表通りに滑り出す。
・・・200mほど先に灯火を消したままのプレジテントが、揺れながら突っ走っているのが見えた。