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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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・・・10分が過ぎた。俺にとっては耐え難いほど、時の流れが遅く感じる。


喉はカラカラに渇き無性にタバコを吸いたいが、ライフルを握った両手を自由にする気にはなれない。


時折、目に入る脂汗は右肩にこすりつける。自分の神経が針のように尖っているのが判る。


・・・俺は風が吹かないことを、ひたすら祈っていた。







・・・5分後、俺は張り詰めた神経にひっかかってくるものを察知する。


排気量のデカいエンジンの震動だ。震動は確実に迫ってきて、建物の壁に反響するエンジン音も聞こえてくる。


しばらくして闇を切り裂く乗用車のヘッドライトが見えた。遠目にも判る黒光りの車体が、ビルの灯りに浮かび上がる。


黒い塊は静かに事務所の玄関に横付けされた。


現行型の日産プレジデント、現状の国産乗用車で最もデカい4400ccのエンジンを搭載しているクルマだ。


・・・俺はスコープ越しにプレジデントの車体を眺めまわす。







後部座席のドアが開き、一人が玄関ポーチの灯りに照らされた。息子であり秘書でもある石山義彦だ。


・・・泥酔運転でトシの親父をひき殺して逃げた張本人。云わば今回の殺戮の因縁を作った「生かしてはおけない人間」だ。


俺の心臓の鼓動はますます早くなり、銃爪に人差指が掛かる。腹の底から熱いものが込み上げ、身体中が震えだす。


「このクソ野郎さえ存在しなけりゃ・・・。」


・・・俺は震えながらも耐えた。


権力を自分の盾にして県政を意のままに動かし、てめえの腹を肥やし放題にして、身内の人殺しまでももみ消す「腐りきったクソ」である石山一彦もろとも殺さなければ意味がない。






・・・少し遅れて石山一彦が、億劫そうに肥満した姿を現した。プレジデントの屋根からヤツらの上半身が露呈する。


スコープ越しに見える義彦の顔は、酒に酔ったように目が据わっていて薄らニヤニヤしている。


俺はレンズの中の黒線のクロスをヤツの顔に合わせた。



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