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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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石畳状の跨線橋を渡り中央通りへ出る。


ほとんどの店がシャッターを降ろした時間でもメインストリートのせいか、街灯は眩しいくらいに明るい。


通りのあちこちにドレスアップしたり、異常に車高を落としたり、マフラーを換えて爆音響かせてるクルマが停車している。


通りに繰り出るオンナをナンパしようと躍起になってるヤツらだ。


オンナはオンナで用事もないのに人待ち顔を装い、オトコを品定めしている。



・・・俺の前に旧型クラウンがいきなり割り込んできた。


後輪を極端な「ハ」の字にして、ちょっとした段差でもガクガク縦揺れしてるクラウンが蛇行を始めた。


真っ黒のフィルムのせいで車内は見えない。


・・・きっとオンナをナンパできなかった腹いせだろう。俺はアクセルを踏んづけてクラウンを追い越した。


胸の中のわだかまりは相変わらず消えてない。


ルームミラーが白く光り、真後ろまで迫ってきた。


見てくればかり改造したクラウンが騒音を撒き散らして強引に俺を追い越した。


今度は派手に蛇行して、しばらくすると急ブレーキを踏んで行方を遮った。


・・・俺はタバコに火を点けてクラウンの黒いリアウインドウを眺めていた。


運転席と助手席が同時に開き、運転席からはボサボサに伸びきったパーマ頭に眉毛を剃り落としたチンピラ気取りのヒョロノッポが、


助手席からパンチパーマのずんぐりしたチビが降りてきた。


ヒョロノッポは白木の柄の匕首を右手にぶら提げている。


・・・俺もドアを開け路上に立った。


「なめたマネしてくれるじゃねえか!このクソガキが!」


見ると28から30ぐらいのオッサンだ。


・・・胸の中のわだかまりは強くなる一方だった。


ため息が出るほど昨日のトシの様子が気になる。


暗闇ですすり泣いてたトシのことが気になって仕方がなかった。


なぜ泣いていたのか・・・・・。





「土下座しろ!このクソガキ!」


目の前のヒョロノッポは両目が昨日のトシのように腫れぼったかった。


「聞いてんのか!ガキ!」ヒョロノッポは俺のクルマのフェンダーを蹴飛ばした。


・・・俺はくわえていたタバコをノッポの顔に叩きつけた。


「うぅっ!」タバコはノッポの瞼に当たったようで、あわてて顔を押さえた。


その瞬間ノッポの腹に膝蹴りを入れた、意表を衝かれて腹を押さえようと体を折ったところに両手を組んだ拳をノッポの背中に叩きつけた。


前のめりになろうとしてるノッポの顔を、右足のコンバースで蹴り上げた。


足の甲に鼻の骨がぶつかる感触が伝わってきた。


悲鳴と共にノッポは後ろに吹っ飛んだ。


・・・俺の中のなにかが切れた、得体の知れない邪悪な生き物が俺の魂を支配するかのように。


俺はノッポに近づき、顔を蹴り上げ腹を蹴り上げ、必死に逃れようとする背中を蹴り上げる。


汗だくになりながらも心は驚くほど冷静だった。


ノッポの悲鳴は泣き声に変わった、「か、勘弁してください!許してください!」


顔は血と涙で汚れている、漏らした小便でズボンは黒々としている。


俺は執拗に蹴り続ける。


「ドスをかざしてケンカ売っといて、そのザマはなんだよ。え?」


俺は匕首を握った右手に踵を落とした、体重を掛けて。


匕首は手を離れて路上に転がる、俺は右手への攻撃をやめなかった。


薄いコンバースの踵には、骨が砕ける感覚が伝わる。


パンチパーマのチビが蒼白な顔で飛んできた。


「もうやめてください!死んじまいます!」と言って土下座した。


俺はその横ツラを体重の乗せた回し蹴りを浴びせた。


チビはクラウンの後部ドアに吹っ飛ばされて気絶した。


・・・ノッポの匕首を拾い上げて、開いている運転席の窓に叩き込んだ。


匕首は大音量で鳴っている助手席の内張りのスピーカーに突き刺さった。





腕で汗を拭いクルマに乗り込み、パーキングブレーキを下ろした。


胸の中のわだかまりは依然消えず、タバコに火を点けため息をついてクルマを発車させた。



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