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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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新津は闇に煙を吹き上げる。


「・・・からくりがあるってことだな、あの事件の。・・・聞かせろ。」


俺は新津の喉仏を眺める、年齢を感じる首筋だった。


「・・・からくりね、・・・誠龍会を飼ってた野郎が誰だか判るかい?」


新津は夜空から視線を俺に移した。


「・・・ヤツらは政界や財界の成り上がり連中の尻拭いを買って出てたらしいな。・・・大物ヅラしてる連中はみんな臭えとも言えるが・・・。」


「・・・県政で一番でけえツラしてる野郎だよ。」


俺もポケットからハイライトを出した。


「議長の石山一彦か・・・。」


「・・・そういうこと。」





ハイライトに火を点けた時、新津の眼が哀しみと憂いに満ちた色をしているのに気付いた。


「・・・石山のバカ息子がトシの親父さんを殺した。石山は子飼いの誠龍会に後始末をさせ、事故を闇に葬った。・・・トシは事実を知り石山に謝罪と辞任を要求した。石山は調子良く応じる姿勢を見せて、その裏で誠龍会にトシを殺れと命じたってことさ。」


俺は新津のように夜空に煙を吹き上げた。


大橋を渡り東京方面へとぶっ飛ばすトラックの排気音が、ここまで聞こえる。


「・・・確証はあんのか?」


新津は背広のポケットに両手を突っ込んでいる。


「確証もなにも、すべてを実行した野郎に吐かせたことだよ。・・・谷底にベンツごと叩き落とす前にね。」


「・・・フジタか。」






ハイライトを踏み消す。


「新津さん、俺はハエがたかってるでけえクソを叩き潰すよ。・・・邪魔をするならあんたを殺してでもね。」


俺はホルスターの玉井のパイソンの膨らみに右手を当てた。


しばらく沈黙の時間が流れた。


・・・新津は小さくため息をついて下を向いた。


「山浦・・・俺はおめえのようなケダモノは、大勢で寄ってたかって殺させたくねえのさ、だから片山を連れずにひとりで来た。」


ポケットの中の手錠の鎖が、またジャラリと鳴る。


「・・・やっぱし大人しくワッパにおさまりゃしねえか。」


俺は新津の眼を見つめ続ける。・・・不意に微笑みの表情を浮べた。


「・・・俺は今日、山浦祥司という男に会わなかった・・・そうだろ?」


俺はその言葉に戸惑いながらも、新津の気持ちを察した。


「・・・そうですね、新津さん。」


新津は背広のポケットに手を入れたまま、踵を返し歩きはじめる。


俺は少し猫背の後姿を眺めていると、「・・・それとな」と言って振り返った。


「叶わねえことだろうが、おめえと一度飲みてえよ。」と言って笑った。


「西さんとこでやれりゃあいいんだがな。」


俺は黙って頷いた。


「・・・それとな、俺等は朝が来たら本格的におめえを探して捉える。・・・かなり大規模にやる、サツの意地もあるからな。」


新津の眼がなんとなく淋しげに見えた。


「動くなら今夜、闇夜に紛れてだな。」


新津は片手を上げると闇に消えていった。


俺は見えなくなった後姿に、深くアタマをさげた。



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