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・・・気配は俺のすぐ後ろまで忍び寄ると不意に殺気が消えた。いや、消したのか。
「・・・やっぱりここに来たか。」
カラカラとマッチ箱を振る音が聞こえ、マッチが擦れ煙が流れてくる。
俺はゆっくりと振り向いた。・・・新津はあの時と同じ顔で、わかばの煙に目を細めている。白っぽいYシャツに、真夏なのに背広を着ている。
「・・・どうだ?」
新津はわかばの箱を振って、突き出た一本を俺に向けた。俺はポケットからハイライトを出して火を点ける。
向かい合ったまま、しばらく煙を吐き出した。
「・・・小僧ふたりは署だ、スタンドの小僧は病院だ。」
・・・俺は後頭部を殴られたような気分になる。
「白バイから逃げてる時に、対向車と接触してな・・・。左足を折っただけだ、死にゃしねえ。」
思わず煙まじりのため息をついた。
「・・・ガキどもはなにも吐きゃしねえらしい、おめえと接点があるような感じではねえんだがな。」
新津は短くなったタバコを落とし、足で踏んで消した。
「・・・おめえはまったく、とんでもねえケダモノだな。・・・ここで初めておめえの眼を見た時にマトモじゃねえとは思ったが、ここまでやりやがるとはな・・・。」
俺も短くなったタバコを足で踏み消した。
「誠龍会はほぼ全滅だ。生き残ってる雑魚もカタワになっちまってる・・・精神的にな。」
新津は背広の右ポケットに手を突っ込み、ジャラリと金属の音を鳴らした。
「・・・気が済んだだろう、おめえの復讐は終わったんだ。」
新津の右手には手錠が握られている。
「・・・あんたらもヤクザのクソどもも、ただの卑怯もんの集まりさ。」
俺は一度、トシの「場所」に目をやる。
「・・・どういう意味だ?」
新津の眼が獣の目つきに変わった。
「あいつの親父さんの交通事故死のこと、知ってるよな?新津さん。」
「・・・ああ、今んとこ迷宮入りになっちまってるがな。」
「あんたは管轄が違うから知らねえかもしんねえが、すべてはそこから始まってんのさ。」
新津は沈黙のまま、またタバコに火を点ける。
「・・・俺の復讐はまだ終わっちゃいねえ。」
新津の吐き出した煙に、夏の枯れた匂いを感じた。