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・・・バックミラーの隅に赤い色が見え隠れする。
サイレンとともに、スピーカーから怒鳴り声が聞こえるが音割れしていて何を言ってるのか判らない。ただパトカーの警官も興奮しているのは感じる。
狭い路地を異常なスピードで、クラブマンは駆け抜ける。
商店街を歩く年寄りや子供は、慌てて店の軒先に飛び込んだり、電柱の陰に身を寄せる。
正面を向かってくる軽トラックはハンドルを切りすぎて、電器屋の前に停まっていたカブを吹っ飛ばして電柱に激突した。
フロントガラスにアタマを突っ込んだ中年の男を横目で眺めながら、スピードを緩めずに突っ走る。
「・・・おっさん、わりい。絶対に死なないでくれ・・・。」俺は祈った。
パトカーは軽トラックのあたりでだいぶ減速したので、距離は広がった。
だが、速度を落とすことは出来ない。ヤツらは空中を飛ぶ無線で、いくらでも俺を追いつめることが出来る。
・・・目の前に赤いシグナルが点滅して降りている踏み切りが迫る。単線の電鉄だ、すぐ左には駅がある。
俺は構わずに突っ込む。バーはクラブマンのヘッドライトにぶつかったが、大した抵抗もなくへし折れた。
だが線路内に入った瞬間、シルバーの車体が警笛を鳴らしてすぐ左に迫っていた。電車の左前とクラブマンの後輪が接触する。
鳴りっぱなしの警笛と、車輪とレールが軋む金属音で耳が痛い。
バランスを崩しながらも、なんとか出口のバーをへし折って脱出した。後部のウインカーは潰れたようだった。
構わずにアクセルを開けて駆け出す。
・・・前方にパチンコ屋やホームセンターがあり、出入りにまごついているクルマが列になっている。
俺はホーンを鳴らしたまま、クルマの脇をすれすれで抜けていった。
ホームセンターから勢いよく出てきたクルマが急ブレーキを踏んだ、若い女の悲鳴が聞こえた。
全身汗まみれになっている、目に入り込む汗を拭えないまま住宅地を激走していく。・・・誰も飛び出さねえでくれと、真剣に願った。
パトカーのサイレンの音は鼻のいいポインターのように、路地を這いずり回っている。
俺は野良犬のカンに任せて縦横無尽に逃げ回る。だが、白バイに追われたらアウトだろう。
その時は、全装填したパイソンに手を掛けなければならない・・・。
・・・ようやく夕闇が近づき、いくらか緊張が和らいでくる。
早く闇に溶けてしまいたい、本気でそう思った。そして克也と仲間たちの無事を祈った。