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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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「・・・ふんなこたぁ、どうでもいいやさぁ。」西田は皮の布のような物で、パイプを磨きはじめた。


「西田さんはいったい何者なんですか。」の問いの答えだ。


「・・・ここに限っては、警察の手が及ばないのは、西田さんの存在のせいですか。」


「・・・さあ、どうだかな。」西田は左手の親指と人差指で、白い顎ひげをさすった。その行為が、質問を肯定しているような気がした。






俺はもう一度木のロッカーを覗き、目に付いた「あるもの」を2個、オリードラブカラーのベストのポケットに突っ込んだ。


・・・美弥がTシャツ5枚とジーンズやスウェットを買ってきてくれた時に頼んだものだ。そのベストとともに、黒布製の編み上げ靴も頼んだ。


美弥は怪訝そうな顔をしていたが仕方なく頷き、翌日に買ってきてくれた。


ベストの下に吊ったショルダーホルスターに、玉井のパイソンを突っ込む。銃弾は左右のポケットに入るだけ入れる、それだけでかなり重くなった。






「・・・ほらよ。」西田が黒革の手袋を放った。手に取って眺める。


「・・・玉井がスナイパーをやめて、まともな仕事をするって決めた時に、ここに置いてったもんだ。・・・獣の道には、また獣が来ちまうもんだな。」


俺は両手にはめてみる、少しきつめだが手に馴染む感じだ。握ったり開いたりすると、キュッキュッと音がした。


・・・編み上げ靴の紐をきつく縛って立ち上がる。


「本当にお世話になりました」と言って、深くアタマを下げた。


ドアを開けて出る時に肩に掛けたライフルのバレルがカウベルに当たって、派手な音をたてる。


西田の方を振り向かなかったが、多分無表情に煙を上げているだろう。






・・・外は昼下がりの日差しが照りつけている。鬱蒼とした神社の森から数え切れないほどの蝉の鳴き声がする。


鎮守の緑はとても深くて、そこだけかなり涼しそうだ。


近くで金属バットが球を打つ音が聞こえ、少年の歓声がしている。夏休みなんだと、しばらくして気付いた。


目の前の市道を行き交うクルマをやり過ごして横断する。ライフルは隠しもせず肩に掛けたままだ。クルマを運転してるヤツは、模造品だと思ってるだろう。


神社の駐車場の誠龍会のセンチュリーには、緑のカバーが掛けられていた。それを剥いで畳む。


ドアは解錠されていてキーも付いたままだ。後部座席にライフルを置き、カバーをトランクに放りこんでエンジンを掛ける。


助手席のシート生地はマルーンなので玉井の血痕は判らなかった。・・・克也の言ってた「事後処理のスーツの4人組」は、かなりアタマの切れそうな印象だったので、その辺もぬかりはないのだろう。






センチュリーは静かに街を走り出す。エアコンは掛けずに、運転席と助手席の窓を全開にする。


設計の古いセンチュリーには三角窓が付いているから、そいつを捻って開ける。ハイライトの煙は枯れた匂いがした。


・・・毎年一度だけ俺だけが感じる、真夏到来の匂いだ。






しばらくして、警察車らしいシルバーのクラウンが2台挟んで尾行しているのが判った。・・・新津と片山コンビかどうかまでは判らなかった。


センターコンソールの自動車電話で、克也の自宅に電話を掛ける。コールは2度目に繋がった。


「・・・例の情報、大丈夫か。」


「大丈夫っす、バイクのダチは会社の携帯電話っての借りてきて、すぐ連絡取れます。」


「判った、ありがとうな。」電話を切る。


・・・尾行車らしきクルマは、もう2台増えたが追いつめて来る様子はなかった。






いよいよ誠龍会の事務所の近くまで来た。


俺はシートベルトを付ける。それまで法定速度で走って来たが、徐々にスピードを上げる。


事務所が市道の向かって右側に見える、対向車線に交通はない。後続車はかなり離れていて、その後ろに警察車がイラつくように追随しているようだ。


事務所の手前で左の歩道スレスレにハンドルを回し、すぐに思い切り右に切る。


アクセルを全開に踏みつける、レスポンスの悪いカバのようなクルマでも、左側のタイヤが軋んでデカい悲鳴を上げた。


俺は両腕を突っ張る、目の前に誠龍会の色つきガラス戸が迫る。






・・・派手な破壊音とともに想像以上に衝撃を喰らったまま、玄関に飛び込んだ。


間口よりセンチュリーの幅の方が若干狭かったためガラスを粉々に吹き飛ばしてのめり込んだ。枠は蝶番ごと吹っ飛んでいた。


勢いづいた頑丈なカバは広い土間を突き抜けて、タタキまで駆け上がってやっと停まる。


俺はホルスターから、パイソンを抜き出した。



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