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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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・・・ションベンの赤色は、する度に薄くなっていき2日経つと透明になった。


ジャンキーに渡された2本の点滴も終わったので、自分で針を抜いた。


窓のない寝ぐらは西田の店も地下だから、まるで時間の感覚が判らなかったが、自分の体力が確実に戻り身体の痛みも遠のいていくのが判る。


・・・俺は身体の動かせる部分から徐々に鍛えていった。


部屋の前の廊下で腕立て伏せや腹筋を、繰り返し繰り返し汗だくになるまで続ける。限界まで続け、息が上がったら汗が引くまで休みタオルで全身を拭いてまた始める。


部屋にあったトラ柄のナイロンロープを適当に切って作った縄で、ボクサーのように縄跳びをやる。異常なほどに打ち込んだ、床に溜まった汗で何度も転ぶ。


隔日ごとにトレーニングした方が筋力がつき筋肉も痛めないとどっかで聞いた事があるが、今の俺には関係のないことだった。


健康のためにしていることじゃない、動かずにいられないから動かしてるだけのことだ。






・・・美弥は昼と夜に食事を持ってきた、「どう?」と言うだけであとは何も言わなかったし、俺も「ありがとう」と言うだけだ。寂しげな微笑を浮べて、俺が食い終わると無言で去っていく。


西田とは一度会った、便所に行った時にパイプをふかしていた。


「西田さん。」と話しかけたが応じる様子もなかったので、俺は部屋に引っ込んだ。






4日経った、俺は身体も心も「機」を覚え「時」を感じる。


夕方やってきた美弥に「警察には尾行られてねえのか。」と訊いた。


美弥はあちこちに視線を泳がし、しばらく逡巡したのち「・・・うん、大丈夫みたい。」と言った。


「克也に会いてえんだけど、来れるかや。」


「・・・克也くん、ショウちゃんにずっと会いたがってたから、喜んで来ると思うよ。」


そう言って笑った時の美弥は、かつての少女だった頃の顔をしてた。






翌朝、廊下でのトレーニング中に克也はやってきた。俺に話したいことが山ほどあるというような顔をして。


・・・玉井の亡骸は、西田の関係してる連中が引き取って行ったらしい。


スーツにネクタイの4人の男たちがやってきて、西田と短い打ち合わせをし、機敏に物事を済ましたと言ってた。


「玉井給油所」は営業していて、玉井の女房と克也でなんとか切り盛りしてるという。・・・俺は玉井の奥さんとは一度も会ったことがない。


当然、事の真実を知っているだろう。どんな気持ちでいるんだろうかと考えた。


警察車輌はスタンドに近くにたまに停まっているらしいが、克也がなにか訊かれることはないらしい。


バイクでここに来る途中も、わざわざ遠回りして尾行を確認しながら来たようだが、尾行られてる様子はなかったようだ。


・・・なにか不自然な気がする。そんな思いがアタマを過ったが、どうでもいいと思い直した。


何が俺を阻もうと、やり遂げるのみだ。


・・・俺は克也に、ひとつ頼みごとをした。克也は喜んで頷いた。


ヤツの尊敬するトシも玉井も亡き今、俺に雪辱を託している表情だった。



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