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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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・・・今夜もビルの窓は、1階も2階も灯りはない。窓を遮断してるブラインドが、薄白く見える。


神社とビルを隔てている狭い市道を渡る。気持ちは急いでいるが、身体が思うように動かない。


狭い視界にクルマが来ていないことを確認してフラフラと歩き出し、やっとビルに辿り着く。


気分が悪くなり、中腰になるとまた脂汗が噴き出した。頬から顎に伝い、ボタボタと垂れ落ちてくる。


汗は裂け目のような右目にも入り、滲みて痛い。・・・気分はますますひどくなる。


俺はアスファルトに膝をついて、四つん這いの姿勢で胃液を吐き出した。


空っぽの腹がヒクついたが出てくる胃液は酸っぱさもなく、黄色い苦い泡が少し出ただけだった。






ビルの壁にへばりつき、玄関のドアを開く。


階段の手すりに掴まりながら、後ろ向きに下りていく。一歩ずつ空気が冷えていくのが判った。


・・・地下の玄関のカウベルが鳴り、灯りが漏れる。「ショウさん!」・・・克也が駆け上がってきた。


俺はなにか言おうとしたがやめた、しゃべる気力も残っていない。克也に支えられて、ゆっくりと階段を下りた。


ようやく地下室の玄関に入る。






ドアから濃い煙が吐き出された。そのうちいくらか視界が良くなり、奥の西田がやっと見えた。


今夜もテーブルの上に足を投げ出し、天井を眺めながらパイプの煙を吐いていた。無表情な顔で機械的に煙を立ち上げている。


西田と俺の眼差しが合う。俺が西田の目を見つめた時、わずかに表情が動いた。


・・・克也が俺をソファーに寝かした、そのまま死んでく気がした。






「・・・小僧、・・・連れてこい。」


ザラザラな声が、そう言い終わる前に克也が動き出す。カウベルを派手に鳴らし、階段を駆け上がって行った。


・・・西田は何も言わず、煙をため息のように吐く音だけが聞こえる。






・・・俺は克也が何を見て、どう感じ、どうなるかがヒリつくほど痛く判っているから、見たくも聞きたくもなかった。


ありがたいことに俺の意識は薄れていき、それが快楽に感じる。


「このまま死ぬかもしれねえな・・・」そう思った途端、記憶が途絶えた。



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