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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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53


・・・玉井がゆっくり近寄ってきて、椅子ごと倒れている俺を引き起こす。


俺の左目は完全に腫れあがり、瞼を上げようとしても視界は開けない。かろうじて見える右目を開ける。


玉井は口で荒い息をつきながらしゃがみこみ、俺の足を固定しているロープを解き、立ち上がる。目の前に玉井の腹部がある。


・・・白いランニングの腹から下が真っ赤に染まっていた。


色の抜けた細身のジーンズの膝のあたりまで変色していて、ランニングの下腹の左側にポツンと孔が開いている。


「・・・社長。」


俺は久しぶりに声を出した、前歯が何本か折れていて顔中腫れあがっているから、まともな発音にはならなかった。


喉も口の中も渇ききっているためか、声は紙ヤスリの擦り合わせのようにザラザラしている。





・・・玉井は返事代わりに弱い声で笑う、蒼白な顔に玉のような脂汗が貼り付いていた。


後ろ手のロープも解かれ俺は立ち上がろうとするが、殴られ蹴られ続けていたからか、内臓のダメージのためか、目が回り気分が悪くなり座り込む。


玉井は俺を気遣い、身体を支える。・・・「あんたの方が重症なんだよ。」と言いたかったが、ポンコツの口じゃ言えそうもないので目で合図した。


玉井は理解したのか、瞬きとともに頷いてみせる。






・・・気分が落ち着いてきたので、そろそろと立ち上がった。玉井はスレートの壁にもたれて俺を眺めている。・・・顔の蒼さと脂汗は、さっきよりもひどく見えた。





全身に痛みが走り回る、痛みのないところを探す方が難しいぐらいだ。可笑しくなるほど苦痛の虫を飼っている、そんな感じだ。


・・・生きてるから痛みを感じる、そんな風にも思う。


椅子の背もたれにつかまりながら胃液を吐き出す。血の泡が混じったそれを吐いたら、いくらかすっきりした。


「・・・行こうか。」


玉井がよろよろと近づき、俺たちは肩を組んでガラスの吹っ飛んだドアから外に出た。俺は縛られていたため、手足の末端は損傷が少なかった。


外は夜になっていたが、いくらか欠けた月光のお陰で完全な闇ではなかった。


下っ端のチンピラが3人死んでいる。目を開けてるヤツもいれば、うつ伏せのヤツもいた。


まだ17、8ぐらいだろうか、顔に青さというより幼さが残ってるようなヤツらだ。・・・こいつらの親はこのあと、どんな顔で対面するんだろうと思った。


・・・しかし玉井は、こいつらの誰かの銃弾を受けたってことだ。




玉井給油所の軽自動車が右ドアを開けたまま停まっている。フロントガラスは全面がひび割れ、タイヤはバーストして傾がっている。・・・まともに動かせる状態ではない。


俺たちは、乗る者がいなくなった黒のセンチュリーに乗り込んだ。


玉井は助手席に座るとリボルバーとトカレフを後部座席に置き、電動リクライニングを倒した。


日焼けした皺の多い顔から伝った汗が、首筋を流れていく。右腕の龍の柄にも汗が伝っている。


キーを回しエンジンを掛ける。周囲になにもない倉庫から、遠くに見える灯りを目指してコラムのレバーをガチャガチャと下ろす。


センターのデジタルは、午前1時を示していた。



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