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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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・・・また暗闇から引き戻された。


キツネ目が俺の胸ぐらを掴んでグラグラ揺すぶっている。平手が飛んでくる。


・・・手も足も出ねえ人間相手に大声を出してイキがる、まったくどこまで性根の腐ったクズだろう。


リボルバーの野郎に銃把で殴られた痛みは、ズキズキするが痛みは遠い。身体全体が麻酔でも打たれて麻痺してるようだ。





「副会長、この野郎なにをしても声ひとつあげねえっすよ!アタマがおかしくなってるんじゃねえですか・・・もう殺っちまいましょうよ!」キツネ目が言う。


「馬鹿野郎!なんのために連れてきたと思ってんだ!・・・この野郎は玉井の居所を絶対知ってるはずだ!それを吐かせてからだ、始末すんのは!」ソファーで寝転がってるバッジの代わりに、リボルバーが怒鳴った。





また巨漢とバトンタッチした。


俺を椅子ごと引きずって壁際に押しつける、後ろに倒れさせないためだ。デカい掌で顔を張る、往復で飛んでくる。


顔中の感覚はとうに麻痺していて何も感じないが、多分相当腫れあがり、顔と呼べるようなシロモノじゃないだろう。歯は覚えているだけで4本は吐き出した。


巨漢は致命傷を与えることが出来ないことにイライラしていた。顔を張るだけ張って、回し蹴りが飛んできた。


左腕に当たりそのまま椅子ごとぶっ倒れる。・・・何度目かのコンクリート床との衝突で、意識が遠のく感じがした。






・・・真夏の昼間、俺は兄貴とふたりで縁側でスイカを食っている、俺はアジシオをしこたま振りかけタネまでガリガリと食う。


兄貴は塩をかけない、少し食っては口の中から丁寧にタネを出す。


・・・親父とお袋が、サニートラックで山から帰ってきた。荷台から下ろしたデカい魚籠の中には、薄緑色の皮に包まれたモロコシが一杯に詰まってる。


毟り残した栗毛が、いくらか付いている。


「ムジナにやられなんで良かったよー。」お袋が笑いながら農作業帽を取り、口を覆っている手拭いを取る。


親父は「今年はあのちきしょうが来なんだで、たんと食えるどー、おめえち。」と笑いながらトマトやキュウリが入った魚籠を下ろす。


そしていつの間にか隣にはトシと美弥が座っていて、ヤツらのお袋さんも笑って立っていた。


「あれ、なんで?」と言いかけた。






・・・騒々しい音で目を覚ます。どのくらい意識を失っていたのか判らないが、現実に引き戻された。


・・・死ぬ前は昔のことが走馬灯のように浮かんでくるって本当なんだなとボンヤリ思っていた。


親父の顔見たのは久しぶりだった、お袋は元気なんかや、兄貴は昔とは違う人間になっちまったな・・・。






倉庫の外で数回銃声がして、人の喚き声や呻き声が聞こえる。・・・外にも見張りのような連中がいたということか。


撃ち合うような銃声が聞こえ、物がぶつかる音が聞こえる。今度はハラワタから突き上げる獣のような叫びが聞こえる。


倉庫の入り口の鉄扉が、ガンガンと金属が叩かれる音がする。






「・・・お、おい、俺は事務所に行くからな、あと頼む。」と言い、バッジが裏の出口に駆け出す。


俺はボンヤリとバッジが出て行った裏口を眺めていると、入り口の鉄扉側から突然爆音がした。


振り返るとドアの上半分の細い針金入りのぼかしガラスが、銃声とともに吹っ飛び粉々になる。


中に残された連中は何が起こったのか判らない様子で、リボルバーもキツネ目も巨漢も、茫然と眺めているだけだ。


・・・覗いた拳銃の黒い銃身がドアに残ったガラス片を一掃して、闇から手が入り錠が解かれドアが開かれた。






そこには鬼が立っていた。


右手にリボルバー、左手にオートマチックを持ち、白いランニングからはみ出た素肌は手首まで蒼い模様が刻まれ、この世の生き物とは思えない阿修羅のような形相だ。


上瞼近くの三白眼は怒りに燃えてギラギラ光り、獲物を追いつめた獣そのものだ。


3人のチンピラはまるで獅子に睨まれた小動物のように身動きひとつ出来ずに、ただ立ち尽くしている。




俺は腫れあがった瞼を精一杯開けて、ゆっくりと首を起こした。


鬼こそは玉井だった。



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