表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜明けの疾走  作者: 村松康弘
50/78

50


顔に衝撃を喰らって目を覚ました。


目の前に空のバケツが転がり、俺の目の前には水が滴っている。バケツに張った水をぶっ掛けられたようだ。


身体を動かそうとするが両手が後ろに回っていて縛られているらしく、足も自由にならなかった。


・・・俺は背もたれの付いた椅子に座らされ、両手両足を固定されていた。






「・・・目を覚ましたようだな、山浦。」声がした。


天井から傘のない裸電球が目の前にぶらさがり、その灯りのせいで周囲が見えなかったが、目が慣れてくるにつれ俺を見据える人間の姿が確認できた。


声をかけたのはバッジの男、その周りにキツネ目、坊主頭の巨漢、・・・見覚えのない男が立っている。


・・・クシカワに少し似た色男だ、リボルバーを掌で弄んでいる。多分、俺に一撃をくれた男だろう。白のシャツに白のズボンで、歪んだ口元はクチャクチャ動いている。






赤いプライマーを塗られたH鋼の柱や梁に、波状のスレート板の壁。


ヤツらの向こう側に何かの機械を梱包したままの木箱や、木製のパレットが積まれていた。どこかの古い倉庫のようで、窓はどこにも見えなかった。






「・・・おめえは大した野郎だな。クシカワが殺られカザマが殺られた時、俺等は関西の組織の殺し屋かと思ってたわ。・・・だから笹岡会長は石山先生に調査を依頼した。」


バッジの男は内ポケットからタバコを出し、火を点けた。


「・・・まさかてめえみてえなドシロウトのガキ一匹の仕業だとは思わなんだぜ、クルマの修理工のな。」


バッジ野郎にタバコの煙を顔に吹きつけられる。


「・・・そんでどうやら、会長の電話に出たのもおめえらしいじゃねえか。・・・フジタをあんなひでえ目にあわせてな!」


言うとバッジの拳が飛んできて、頬にごついのを喰らって椅子ごと倒れた。


アタマを強く打って脳震盪を起こしかける。前歯がまた折れ口の中が痺れる、バッジの指のリングで頬が裂けた。


・・・巨漢が椅子ごと起こす。


「・・・俺等もなめられたもんだぜ。・・・だがな、こうなった以上シロウトだろうが許しちゃおけねえ!・・・カタギに手荒なことはしねえが、てめえは別だ!」


そう言うとバッジの蹴りが腹に食い込み、また倒れる。


呼吸が苦しくなり、胃袋の中のものを派手に吐き出す。・・・せっかくの御馳走が台無しになった。


巨漢は吐いたものを避け、同じように椅子を起こした。俺は可笑しくなり、汚物と血にまみれた口から笑いがもれた。


「てめえ!なに笑ってけつかる!ああ!」


バッジは血走った目を開けて、胸ぐらを掴む。






「・・・クズどもが笑わせんじゃねえ!・・・群れなきゃ何にも出来ねえ腰抜けのウジどもが!」俺はハラワタの底から怒鳴りつける。


「カタギに手荒なマネはしねえだと!・・・園部を殺して妹を強姦したのはてめえらウジ虫じゃねえか!」・・・一瞬、沈黙が訪れた。



・・・リボルバーの色男が薄ら笑いを浮べて寄ってきた。


「副会長、いいじゃないですか。こんな野郎どうせここで始末するんですから。・・・それより口を割らせねえと。」


バッジは誠龍会の副会長らしい。ヤツは掴んだ手を離した。


再び静かな声に戻る。「・・・玉井はどこだ?」


・・・俺はその言葉で、笹岡会長を狙撃したのは玉井だと悟った。


玉井からもらった30万の封筒に入っていた手紙の文句、「俺も地獄に行く覚悟は出来ている。」そういうことかと思った。


俺は実際、玉井の居所は知らないが、もし知っていたとしても喋る気などサラサラない。


バッジは「・・・吐くまでかわいがってやれ。」と言い、暗がりにあるソファーに座った。


キツネ目と巨漢が、待ってましたとばかりに目の前に立つ。


華奢なキツネ目は痩せた腕でパンチを繰り出す。胸や腹にくるパンチは仕方ないが、顔にくるそれは当たる瞬間に首を捻り、衝撃を弱めていた。


暴力に慣れてないらしいキツネ目は、ない体力を振り絞り殴りつけてくる。しばらくはサンドバッグのように殴られ続けていた。


俺は弱いパンチと云えど、顔中が腫れあがり瞼が開かなくなっていくのを感じる。


アタマがジンジンしてきて、痛みの感覚が鈍くなる。左の耳は良く聞こえなくなっていた。





・・・キツネ目は汗だくで肩で息をつき、「もうだめだ、手が痛くてたまんねえ。」と言って後ろへ下がる。


今度は巨漢がニヤニヤして、立ちはだかる。


いきなり腹に重たい拳がめり込む、途端に胃から込み上げてくるものが口から噴き出る。苦い味がする黄色い胃液だった。


もう一発、ドシンと胸にきた。息が詰まる、きっと肋骨が折れただろう。


「バカ野郎!口を割らせる前に死んじまうじゃねえか!」リボルバーがはじめて怒鳴った。声が遠い。


巨漢が視界から消え、リボルバーが前に立つ。


「・・・山浦、喋る気になったか?」嘲るような声がしたが、やはり遠い。






・・・俺は決めた。


ここで死ぬのなら、呻き声ひとつたてずに自分の最後を毅然と見送ろう。


リボルバーの嘲笑いが消え、銃把の一撃が飛んできた。


また目の前が暗くなる。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ