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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
5/78


19:00


俺は手洗い場の桃色の粉石鹸を握り少しの水で泡立て、シンクの隅に置いてあるタワシで入念に手を擦る。


汚れたエンジンオイル・デファレンシャルのギヤオイル・ミッションオイル・ブレーキフルードを交換するのは素手だから、いくら洗っても完全にきれいになることはないが。


指紋にクッキリ入り込んだ黒い染みを見ると「俺が殺人犯なら現場にこの指紋が残るってことか」と、無意味に思ったりする。


・・・マダムの整備は予定通りに終わった。


さすがにオーナーがまるで自分の妾みたいに大事にしてるクルマだけあって、人間で言えば優良の健康体。


だが整備メニューにはなかったが、パワーウインドウのガタつきとスピードメーターの針の揺らぎとアクセルペダルの重さを修理してやった。


ドライバーはそういう直接的なレスポンスが良くなってると車体自体が生き返ったように思うものだ。


タイムカードを挿し下から3番目の自分の位置に戻し、「そんじゃお疲れでしたー」とドアを閉める瞬間、フロントの松木さんに「おい!山浦!」と声を掛けられた。


「お前、客の評判もいいしガキの割りに覚えもいいみてえだから、フロントの勉強するかー?」


松木は今日の整備記録の書類を棚にしまいながら俺に言う。


「いやいや、俺は人間よかクルマ相手にしてんのが性に合ってるし、お客を相手すんのは松木さんみてえにジジイになってからでいいっすわ!」と答え、怒鳴り声から逃れて自分のクルマのドアを開けた。


イグニッションを回し、4ドアの窓を全開にする。


エアコンは付いているが真夏でも掛けない、ひと昔前の『三角窓』が欲しいぐらいだ。


・・・俺は朝の通勤の時はカセットもラジオも掛けない。


その日に携わるクルマのことを、あれこれ考えるための時間に充てているからだ。


その代わり帰路は爆音を流して走る。


残照の街を走りながらCREAMの音に浸る。





「・・・トシ、どうしたかなー」と、やっと昨日のことが脳裏に甦ってきた。



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