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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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・・・暑さで目を覚ます。


スターレットの前の窓は全開にしていたが照りつける日差しが天井を灼き、うだるような暑さだった。


顔の汗を拭いシートを起こして腕時計を見た、午前10時20分。


タバコを2本吸ってからクルマを出す。諒子の部屋を見上げたが、やっぱり様子は判らなかった。





作業服屋の駐車場にクルマを入れ、尻ポケットに入れっぱなしだったトカレフをグローブボックスに放り込む。


夏用の薄い生地の綿の作業着の上下、肌着とパンツ、靴下を買う。


店を出てから踵を返し、もう一度店に入り、履きやすそうな黒いスニーカーを買った。





街から少し離れた市場の近くのドライブインに入る。


そこは市場に働く人々や市場を出入りする長距離トラックドライバーのために、シャワーが完備されている。


俺は買った作業着類の袋を提げて、シャワーを借りた。


・・・真夏に何日も身体を洗ってなかったので、念入りに身体を洗う。


短い爪の中は相変わらず黒かったが、それはまともな暮らしの頃の廃油の汚れじゃなくて、山中で掴んだ土の汚れだった。


シャワーを出て買いたての服を身につける。人殺しで穢れた服は丸めて大きなビニール袋に突っ込んだ。





食堂は昼飯を食いに来た客でごった返していた。


大音量で鳴ってるデカいテレビの近くのテーブルに、空いてる席があったので相席で座る。


しょうが焼き定食とたぬきそばを頼んだ。


同じテーブルの俺以外の3人は職場の仲間で、市場内で品物を運搬するフォークリフトの運転手らしかった。店は混んでる割りに食い物はすぐに運ばれてきた。


・・・久々に食うまともな食事で、とにかく旨かった。


胃袋が収縮していたので食いはじめはすぐに満腹になりそうな気がしたが、食うにつれて胃袋が拡張してきていくらでも入りそうだ。





「・・・それでは県内のニュースです。今朝早く長野市**町の山林で、自動車が谷底に転落していると付近の住民からの通報があり、駆けつけた警察が調べたところ、長野市の会社役員・藤田一政さん40歳と判明されました。


現場は県道沿いの待避所の近くで、待避所から誤って転落したと思われますが、車内の遺体の状況に不審な点があるため、警察では事故と事件の両方から捜査をしている模様です。それでは次に・・・」


俺はたぬきそばを啜りながらテレビの画面を眺めた。鑑識の連中が映る向こう側に、新津がチラッと映っていた。


ほんの一瞬だったが、深刻な表情の唇の隅が少し歪んでいたように見えた。






「・・・ヤクザ同士の抗争じゃねえ?」前の席のおっさんがタバコに火を点けながら言った。


「街が不景気だから、連中も不景気でイザコザあんじゃねえんかやー?」隣のおっさんが楊枝を抜きながら言う。


俺が食い終わる前に3人は席を立った。満腹になり、ハイライトを2本灰にして席を立った。


レジに向かう途中でテレビが「先ほど入りましたニュースですが・・・」と切り出した。


「今日午前9時頃、長野市の広域暴力団・誠龍会会長の笹岡義夫氏が自宅の庭付近で、何者かに銃で撃たれ病院に運ばれましたが、午前10時すぎに死亡が確認されました。凶弾は心臓付近に一発と見られていますが、詳しいことはまだ判りません。警察では殺人事件と見て捜査しています・・・。」


俺はテレビの方を向いたまま、しばらく動けずにいた。


「いったい誰が、なんの目的で・・・」


あまりにも偶然な同日の殺人騒ぎで、被害者は同じヤクザ組織の幹部と会長。世間的にはヤクザ同士の抗争としか思わないだろう。・・・しかし誰が。






俺は飯代を払って店を出た。



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