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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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・・・ここから先は一旦急勾配の法面を降り、谷底に流れる渓流を越えて、また勾配のきつい山を越えなければならなかった。


低い藪の枝を掴んで坂を下りていく。枯葉が堆積していて、その下の柔らかい土は踏ん張りが効かず、滑るように降りていく。


ハイカットのコンバースの中に土や葉が入り、時々靴を脱いでそれを払う。月明かりが届かない闇では、派手に転げ落ちる。


・・・谷底に着いた時は作業着が泥だらけで、噴き出る汗で重くなっていた。


顔や手は、棘のある植物に引っ掻かれてヒリヒリする。たまたまニセアカシアの枝を掴んでしまい、その棘のせいで掌が痛い。






渓流に転がる石を飛び移り、対岸からまた山を登る。


登りやすい場所を選ぶがいざ登ってみるとオーバーハング状に崩落したところに出て、空中の木の根を掴んで乗り越える。


空腹と喉の渇きは辛いが、とにかく目の前にある木の根元を掴み、足掛かりを探して登る。


降りてくる何倍もきつく消耗も激しいから、息が整うまで何度も休みながら登っていく。


遠くに車道を走るクルマが見える。・・・整備された道をクルマで通るならほんの短い時間で通過出来る距離を、汗だくで息を切らし乗り越える。






・・・「俺がしてきたこと」も「俺が果たすべきこと」もそれと同じで、無意味と云えば無意味だ。


美弥が言うように、俺がなにをしようと死んだトシは戻りはしない。この闇の空でヤツが見てるとも思わない。


誰ひとり喜ぶ者もない、警察が忙しくなりヤクザどもが腹を立てるだけのことだ。


・・・俺が果たそうとしていることはトシが殺られたことへの復讐には違いないが、憎むべき者を叩き潰すという行為で、自分の怒りを発散してるだけのことかもしれない。


だが、構わなかった。愚行だろうがなんだろうが、俺が決めたことなのだ。






・・・やっと尾根まで辿り着く。


身体を投げ出すように地面に倒れ込み、荒く息をついた。呼吸が楽になってから、ハイライトを2本吸う。


喉が渇ききった時のタバコはあまり旨くない。汗に濡れた作業着についた枯葉を払い、最後の坂を降りる。


勾配は緩やかで何かに掴まらなくとも降りれた。手入れされてるためか、藪が少ないのがありがたかった。


疲れのためか気付かずに捻ったからか、左足が痛くなってきた。


・・・ようやく麓にある林道に辿り着いた。今までを考えれば、目をつぶっても歩けるぐらい快適な道だ。






夏の夜明けは早い。


左足が痛むので、枯れ枝を拾って杖代わりにしてゆっくり歩く。


・・・突然、クルマのヘッドライトが迫ってきた。


俺は心臓を掴まれる思いで慌てて道下へ隠れたが、やって来たのはオフロードを走りたくて無駄銭を掛けて改造した、無駄にデカいランクル60だった。


60は土埃をあげて走り去った。


・・・林道は間もなく終わり、久々にアスファルト舗装を踏みしめる。朝焼けに明けてく道を歩いていく、杖は放り投げた。


まだ目覚めてる人が少ない静かな住宅地を歩く。


新聞配達のカブとすれ違い、自動販売機の冷たいウーロン茶を買って飲む。足りなくて、もう一本飲む。


スポンジが水を吸うように、全身に水分が行き渡った気分になった。



諒子のマンションが見えた。部屋の窓を見上げたが、様子は判らなかった。


・・・スターレットがうずくまってる駐車場に辿り着いた頃には、早い出勤のクルマが走り出していた。


鍵を開けて乗り込みREDの栓を開け、ラッパ飲みする。


空腹の胃袋が収縮する感じとともに全身にアルコールが駆け回り、言いようのない快楽に堕ちていく。


シートを倒した瞬間記憶を失くした。



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