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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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山道はたまにクルマが通り過ぎるだけで、待避所に入るクルマもなかった。


フジタは気分が悪そうな蒼白の顔でしゃべりはじめた。


「・・・石山先生に義彦って息子がいる。そいつは名目上は秘書の一人としてるが、どうしようもねえ馬鹿息子で、毎日仕事もしねえで遊び歩いている野郎だ。」


「・・・・・。」


「クルマキチガイで女大好きの色キチガイ野郎で、しょっちゅうトラブルを起こしやがってな。誠龍会は石山先生の子飼いの組織だから、そのたんび俺等は処理してきた。」


「・・・・・。」


「・・・先生はそんな馬鹿息子の義彦には甘くて大して怒りもしねえから、野郎は反省もせずに毎日遊んでいやがるんさ。」


俺はハイライトに火を点けた。


「・・・あれは5年ぐらい前だったか、夜中に義彦が泥酔状態で運転するクルマん中で、その日に寝るオンナとふざけてやがったせいで、青信号で横断歩道を渡ってた人をひき殺しちまった。」


「・・・・・。」


「バカは青くなって親父に電話したんさ、それで先生はいつものように俺等に始末を頼んできた。」


俺はハイライトの灰を落とした。


「俺等は鑑識あがりのヤツを連れて行って、死体を別の交差点に運んだり死体に付いたクルマの塗料を処理したり、バカのクルマを処理したり・・・。だから野郎のひき逃げ事件は、お宮入りになった。」


「・・・・・。」


「・・・その被害者が園部の親父だ。」


俺はハイライトを「く」の字に折り曲げて消す。


「・・・俺等は完璧だと思った。だが5年も経ってから思わぬ形で発覚しやがった。」


はるか彼方でバトルの爆音が聞こえる。


「あの夜、現場近くのアパートの窓から近所の女の部屋を盗撮してるヤツがいやがった。・・・まったくの偶然なんだが、そいつは一部始終を見てて写真に撮っていた。」


フジタは少しの間咳き込んだ。


「園部はどこかでその事実を知って、今年の春先に先生のとこに乗り込んで来た。・・・ネガと写真を持ってな。」


「・・・・・。」


「野郎は金を要求するわけじゃなかった。義彦の自首と先生の辞職、そして親父の墓に土下座の謝罪を求めた。」


「・・・・・。」


「先生はそれに応じる振りをして、ヤツが持参してきた問題の写真とネガを言葉たくみに巻き上げた。・・・つくづく園部って野郎はどうしようもねえお人好しだったぜ、あんなタヌキに簡単にだまされやがってな。」


俺のアタマにトシの声が聞こえた気がした。


「だが一向に動きを見せない先生に、園部は腹を立てた。・・・そして、ヤツの存在を煙たがった先生は俺等に黙らせろとだけ言いやがった。」


フジタは大きくため息をつく。


「・・・これが全てだ。・・・ここまでしゃべった以上、どっちにしても生きちゃいられねえのは覚悟の上だ。」






・・・俺はクルマを降り、近くの林に入る。直径3cmほどの枝の拾い、ナイフで40cmぐらいに切る。


クルマに戻りエンジンを掛けてヘッドライトを点け、10m後退する。サイドブレーキを引き、オートマチックのレンジをドライブの「D」に入れる。


ドアを開けクルマを降りて半身の姿勢で、枝を運転席シートの下の出っ張りにかけて、反対側はアクセルペダルに押しつける。


滑らないように徐々に押しつける、切り口のギザギザがペダルのゴムに引っ掛かってうまい具合に固定できた。


1800回転にしてからシートに転がしてあったトカレフを尻ポケットに突っ込む。


フジタは固定されたヘッドレストから首だけこっちを向けた。恐怖で血走った眼を大きく開けて、歯をカチカチ鳴らす。


「・・・じゃあな、ウジ虫野郎。」


そう言うと俺はサイドブレーキを解除した。


俺は飛び出したベンツの後ろドア部分に叩きつけられ、倒れる。


ベンツはガードレールのない闇に向かって突撃する。


地上から離れた一瞬、鼻先が持ち上がりそのまま下向きになって視界から消えた。抵抗を失った後輪のせいでエンジン回転を上げながら転落する様子だ。


俺は崖際まで行く。


ベンツは15m下の岩にぶつかり、バウンドして向きを変え落下していく。もう一度地面にぶつかり、今度は横になって回転しながら谷底へ落ちる。


ライトがあらゆる方向を照らす。川になってる底で動きが止まりしばらくして、クルマが燃え出した。


しかしその内に火は弱くなって鎮火した。タンクのガソリンには火が回らなかったようだ。






「トシ、ウジは残さず潰したよ。・・・でもウジ虫がたかってるデカいクソはウジ虫以上に許せねえな・・・。」






・・・頭上の満月の光はどんなに汚れたにも分け隔てなく、優しく降り注いでいた。



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