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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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・・・前方を白いワンボックスが走っている。多分行楽帰りの家族だろう、のんびりと走っている。


リアウインドウに何か貼ってある。近づくと「CHILD IN CAR」というステッカーだった。街では「BABY IN CAR」のステッカーを貼ってるヤツも良く見る。


・・・だから何だと言うのだ、だからどうしろと言うのだ。俺には意味不明としか思えない。





ワンボックスはそのうち後ろを走っているのがデカいベンツだと気付いて、慌てて左へ寄せる。寄せすぎてガードレールに擦りそうになっていた。


大して近づいていたわけじゃないが、ワンボックスはウインカーを出したまま、極端に減速した。


俺はクラクションを軽く鳴らして追い越していく。






・・・権力構造の中に生きてる善良な市民なんだろう。


「そうやってつまらないことにも過敏に反応して小さくなって、自分の身の回りだけ心配して生きてろよ。」たかがベンツ1台でイキがるヤツもビビるヤツも、両方くだらなくて腹が立つ。





緩やかな右カーブに広い待避所があり、そこにベンツを入れる。道路改良で拡幅された旧道部分だろう。以前、車検上がりのクルマの納車で時間を潰したことのある場所だ。



ヘッドライトを消し、エンジンを止める。フジタはさっきから目を閉じていた。


左の窓を全開に開けて、ハイライトに火を点ける。


「・・・園部を殺った本当の理由は?」俺は切り出した。


「・・・知らねえな。俺等は会長に指図された通りに動いただけだ。・・・いくらか勝手なこともしたがな。」


「・・・イシヤマ先生とは、県議会議長の石山一彦か?」フジタは口呼吸を一旦止めた、反応したということだ。


「・・・知らねえな、イシヤマなんて人は。」


「そうかい。」






俺はフジタの左脇腹を、強くも弱くもない程度に拳で叩く。規則正しい一定のリズムで、一定の強さで。


月明かりは優しく降り注ぐように、周囲の森や山を照らし出している。


10分間叩き続けた頃、フジタは額に脂汗を浮べて呻きはじめた。俺はやめない、時間は充分過ぎるほどあるのだ。


20分叩く。衝撃は強くはないから内臓のダメージは少ないだろう。


だが、心が壊れていく。不快な状態が規則正しく続くことに恐怖を覚える。


永遠に続くのではないかという恐怖。


30分叩く。フジタはベルトに括られた首を前後に振って、ため息をつきながら口を開いた。


「・・・議長の石山先生だ・・・。」






石山一彦。保守の重鎮で、たまにテレビでも顔を見る政治家。・・・俺はフジタを叩くことをやめなかった。


ヤツはゴルフシャツも顔も脂汗まみれだった。



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