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尻ポケットが嵩張るからトカレフを出して膝の上に置いた。フジタは何の反応も示さなかった、無言のまま口で荒い呼吸をしているだけだ。
日曜日の夜だから、繁華街を歩く人は少なかった。ナンパ待ちのオンナも極端に少ない。
俺はハイライトに火を点け、くわえたままハンドルを操作する。
・・・突然、近くで電話の音がした。センターコンソールにある自動車電話の呼び出し音だった。
数年前に移動通信とかいう会社が開発したものだ。俺は初めてそれを見た。
3度目のコールで受話器を取り、そのままフジタの耳に押しつける。フジタが黙っていたので、さらに強く押しつけると「・・・もしもし」と声を出した。
そこで俺は自分の耳に受話器を当てた。
「ああ、ササオカだ。・・・さっきイシヤマ先生から電話があったんだが、例の野郎、お前を追って動き出してるらしいぞ。・・・・・おい!聞いてんのか!」
「・・・はい、聞いてます。」俺はフジタの声を真似た。
「イシヤマ先生がエージェントを使って調べてくださったんだが、そいつは山浦って名前でカタギのシロウトらしい。」
「・・・はい。」
「・・・まったくクシカワもカザマも、シロウトのガキに殺られやがってだらしがねえ!」
「・・・。」
「それでな、イシヤマ先生も心配されてて、早いとこその野郎も片付けろって怒鳴られてな。」
「・・・はい。」
「それと、園部の始末のことも怒ってたわ。」
「・・・。」
「だからお前の方で罠を仕掛けて、捕まえたら事務所に連れて来い!」
「・・・わかりました。」
「だが、しゃべれる程度に生かして連れて来いよ!吐かせることもあるんだからな!」
「・・・はい。」
「・・・だいたい、園部の野郎も事務所で始末すりゃ、なにも問題なかったんだぜ!わかってんのか!」
「・・・。」
「まあいい。それと、その野郎はクシカワのトカレフを持ってる可能性があるから気をつけろよ!」
「わかりました。」
俺は膝の上のトカレフを見つめながら電話を切った。
繁華街を過ぎて灯りの少ない山道へ走らせる。周囲が薄ら明るいのが妙で、見上げたら満月だった。
「走り屋対策」の凸凹舗装のコーナーが続くルートには休日はない。
サスを固めスペアの扁平タイヤを積んだレビンやトレノ・RX-7・シルビアが次々にベンツを追い越していく。
オールナイトでバトルするのが楽しみらしく、追い越したあと各々がハザードを点けて去っていった。
・・・俺の復讐のシナリオは、どうやら簡単には済まなそうだ。