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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
4/78

6:40


目覚まし時計の電子音が鳴った、・・・少し酒が残っている。


首を左右に傾げてポキポキと鳴らすのは俺の癖、そして両手の指の関節も第二関節まで残らず鳴らす。


テーブルの上のハイライトに手を伸ばし、蝶番にガタが出てきた真鍮ボディのzippoで火を点ける。


ハイライトの茶色のフィルターは、ほかのタバコのそれより軟らかく、噛むと簡単に潰れる。


灰皿の吸殻はどれもこれもフィルターが潰れてて、「く」の字に曲がっている。


消す時に折り曲げて潰す、それも俺の癖だ。





トシは反対側を向いて眠っていた。


背を丸めてタオルケットにくるまって。





ユニットバスの真ん中にある洗面台で顔を洗い歯を磨いて、ようやく目が醒めてきた。


膝の抜けた何日も洗ってないジーンズをはいてゴミ箱をあさり、6月のカレンダーを拾い上げる。


丸まってるカレンダーを伸ばして、ガラスのテーブルの上に広げる。


『トシ、冷蔵庫になんかあると思う、それと棚に缶詰あるからテキトーに食え。帰るなら郵便受けにカギ放り込んでくれ。


調子悪かったら美弥ちゃんに病院連れてってもらえよ!んじゃ!』


それだけ書いてアパートを出る。





いつもと同じ時間にいつもと同じ道を走りながら、トシの妹・美弥のことを考えてた。


俺等の2歳下だから19。高校を卒業してファミレスに勤めて2年目。


俺のアパートからさほど遠くない所に兄妹で住んでいる。


・・・いつもと同じ時間に会社に着く。


「沢田モータース」俺が勤めている自動車修理工場。


いつも見る面々にいつも通りに挨拶して2階のロッカーへの階段を上がる。


「山浦 祥司」のロッカーから洗濯済みのツナギを出して着替える。


冬場は2日、夏場は毎日着替える。





8:00


いつもの無愛想なブザーが鳴り、仕事が始まる。


自動車修理工場は車検整備の割合が大きい。


だから朝一は社のクルマに数人乗り、引取りに回る。


引き取ったクルマは、下回りとエンジンルームを洗浄してから『車検検査員』が各部をチェックして不良箇所を洗い出す。


車検に合格しない不良部は当然整備するが、他の不良部についてはフロントがユーザーに打診して修理するかどうかを決めている。


今日俺が担当したのは古いセダン。


なにかあればすぐウチの工場に入れてくれる常連さんだが、なかなか気難しい中小企業オーナーのクルマ。


もう20年も前のクルマだから、そいつ自体も気難しい存在なんだが。


フロントは「こいつの整備は山浦以外はダメだぞ!」と念を押されて受けてるらしい。


・・・クルマは機械であるが不思議なものだ。愛情を注いでいつも乗り回してやると上機嫌だが、相手してやらない時間が長いとあちこちで不具合が発生する。


「ようこそ、マダム」・・・俺はそう言ってスターターを回し、工場へ入れてリフトアップした。



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