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俺は段ボールの小箱を両手に持って、顔を伏せながら応答を待つ。
10秒ほど経ってもう一度チャイムを鳴らす。
「ガチャリ」と受話器が上がる音がして、「・・・はい、どなた?」と、眠そうな気だるい声がした。
「ヤマト運輸ですが、お届け物をお持ちしました。」
「・・・ヤマト運輸?・・・はい、今開けます・・・誰からかしら・・・。」最後の方は独り言のように言って、ガチャンと音がした。
玄関のロックを解く音が2度聞こえ、チェーンを外す様子が外まで伝わってくる。・・・ドアが開かれる。
パジャマ姿の30女が立っている。化粧っ気のない顔は健康的な感じはしないが、整った顔立ちをしている。
営業用の夜化粧をすれば、薄暗い照明の下で男に銭を使わす魅力的な女になるのだろう。
俺は玄関に入り小箱を差し出す、女は受け取ろうと両手を差し出す。
その瞬間、俺は小箱を床に落とす。
女は驚き両目を見開いたまま俺の顔を見る。・・・俺は女の鳩尾に手加減した拳を叩きこむ。
「うぅっ!」と前のめりになって意識を失った身体を受け止め、コンバースを履いたまま廊下を引きずっていく。
3LDKの高級なマンションだ。突き当りのリビングの本革のソファーに女を下ろして寝かす。
レースのカーテンが引かれているデカい窓の向こうは暑さに疲弊した街が眼下に見えているが、この部屋は空調が快適で申し分ない。
俺は玄関まで行き、鍵をロックして落とした小箱を拾ってきて開け、結束バンドで女の両手を後ろ手に縛る。女の口をガムテープで塞ぐ。
毛の長い絨毯に腰を下ろして、ハイライトに火を点ける。
分厚いガラスのテーブルの上の灰皿を引き寄せ、女が意識を戻すのを待つ。
5分ほどして女が身じろぎを始め、目を開く。
俺はポケットの自動拳銃をその顔に突きつけ、意識がハッキリするまで待つ。
女はボンヤリとこっちを見つめ次の瞬間、恐怖に目を見開いた。
「静かにしてくれるなら、口を自由にしてやるがどうする?」俺は小さな声で訊いた。
女は何度も頷き、血走った眼でこっちを見る。
ガムテープを剥いでやると女は荒く呼吸すると冷静さを取り戻し、俺を睨みつけた。
「・・・犯すんならさっさとやんなよ!だけどあんた、後で後悔するからね!」女は唇の隅を歪め、凄んでみせた。
「・・・悪いね、あんたには用はないんだ・・・あんたの男に用があってね・・・フジタさんにね。」
そこまで言うと女は、拳銃に目をやりギクリとした。
「・・・クシカワのトカレフ!・・・あんたは!」と言い身体を震わせた。
「・・・そうか、トカレフっていうんだなこいつは。」
俺は右手の拳銃のグリップの星のマークを、親指でさすった。