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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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ドアに付いたカウベルが揺れる音で目を覚ます。


身体を起こして入り口に目をやると、西田がパイプをくわえて入ってくるところだ。


薄暗い照明がいくらか明るくなった。


外の状況が判らない地下室なのでどのくらい眠ったのか判らないが、まったく夢も見ずに眠り続けてたようだ。


包帯が巻かれた左腕も痛まないし、なにより体力が回復しているのを実感している。


俺は立ち上がり「お世話になりました、迷惑かけてすんません。」と言うと、西田は黙ったまま、右手に持ったビニール袋を俺に差し出した。


向き合ってみると俺より少し背が高いから、180cmはありそうなデカいじいさんだ。


袋を受け取り中身を見ると、パンや握り飯・ハイライト・REDの瓶が入っていた。


「なんかすんません・・・。」言いかけると、


「俺じゃねえ、ドアに掛かってたわ・・・玉井が自分とこの小僧か誰かに届けさせたんだろうな。」


そう言うとソファーに腰を下ろし、「玉井は新津や片山にマークされてるから、迂闊に動けねえからな。」と言った。


濃い煙の塊を大量に吐き出すと「・・・おめえのクルマ、移動させといたからな。代わりのポンコツみてえなのが停まってるわ。」


「・・・申し訳ありません・・・ですが、なんでそこまでやってくれるんすか?」



「・・・さあな。」天井に煙を吹き上げる。






俺はビニール袋を提げて「本当にお世話になりました、一生忘れません。」と頭を下げた。


西田は「・・・その一生が短くなきゃいいがな。」と煙の向こうでしわがれ声で笑った。


俺がドアを開きかけると「・・・それからな。」と西田が呼び止めた。


「・・・フジタは警戒して、自宅に寄り付いてねえらしいからな。」と言った。


・・・この人はいったいどこまで知ってるのか、それより何者なんだろう・・・


俺は静かにドアを閉め、暗い階段を登り外へ出た。


辺りは真っ暗だったが、近くの住宅の窓には灯りが点いていた。


真夏だがこの街は夜になると涼しい。・・・遠くで救急車のサイレンが響いてる。


俺は深呼吸して、肺に残ったヤニだらけの空気を吐き出す。






神社の庭には、灰色のトヨタスターレットが停まっていて鍵はつけっぱなしになっていた。


2ドアのスターレットの助手席に袋を放り出し、尻ポケットの拳銃とナイフをグローブボックスに放り込み、スターターを回す。


8万kmのそいつは、1300ccのエンジンを軽快に唸らせた。





・・・警察はクシカワ殺しとカザマ殺しの犯人は、俺と断定してるだろう。そして俺を追いかけてるのは、新津や片山ばかりじゃない、誠龍のヤクザどもも同じだろう・・・


俺は果たすべき最後の復讐に向けて、スターレットのパーキングブレーキを下ろした。



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