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俺は自分の左腕に目をやった、赤いタオルを巻いてるようだ。
西田がニヤリと微笑み、「玉井の脳みそは大したもんだわ、読んだ通りだわ。」と言うと、しわがれた声で笑ってパイプに火を点け濃い煙を吹き上げた。
上の歯も下の歯も数本しかなかった。
俺は向き直り、酒棚の瓶を見上げながらグラスに注ぐ。「ROLLING K」というバーボンだ。
掛かっている音楽が「DANCIN' WITH MR.D」だと気付いた途端、また意識が朦朧としてきた。
不意にドアのカウベルがカラカラと鳴り、千鳥足の男が入ってきた。
ボサボサの髪の毛に落ち窪んだ眼、歪んだ唇に枯葉色の煙草をくわえている。
左手に黒い革のカバンを重そうに提げている。
一見してジャンキーと判ったが、俺はキース・リチャーズと同類の人間だなと思った。
ジャンキーが辺りを見回し、カウンターの俺を見た。
「・・・てめえか、怪我人は。」と言うと、「コ」の字のソファーにどっかりと座り、「・・・早く来い!診てやらねえぞ!」と大声を出した。
俺は西田に目をやると、ニヤニヤしながら顎をしゃくった。
どうやら俺の怪我を診てくれるようだが、何がなんだか判らずにジャンキーが座っているソファーに歩くほんの数歩で意識が途絶えた。
目を覚ますとソファーに寝ていた、ジャンキーの姿はなく左腕にはきれいに包帯が巻かれている。
テーブルの上にカプセルの薬が置かれていて、水が入ったピッチャーとグラスが置いてある。
起き上がると西田の姿もなく、部屋の中はシンと静まり返っていた。
・・・状況は判らないが、とにかく安堵した途端、眠気が襲ってきた。