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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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暗い階段を下りると、こげ茶色のドアがありその上の玄関灯が淋しく点いている。


手前に引くとカウベルのような飾り物がカラカラ揺れて鳴った。部屋にたちこめるパイプだか葉巻だかの煙と香りが外へ溢れ出てきた。


薄暗い灯りに照らされた板張りのフロアに足を踏み入れる。


20畳ほどの部屋の向かって右側にバーカウンターがあり、酒棚には埃が被ったままのバーボンやスコッチが並んでいる。


カウンターの上にはさまざまなガラクタのようなものが積んであり、5つあるスツールにも本や書籍らしきものが載っていて、座れるのは2つぐらいだ。


左側にはかつてボックス席になっていたと思われるソファーが「コ」の字に並べられ、いくつかのテーブルを並べて広くなっている。


その上にもいろんなものが雑多に置かれている。


・・・そして一番奥の応接セットのテーブルの上に、足を投げ出してパイプを磨いている男がいた。


見事に真っ白なオールバックの髪の毛と、昔の千円札の伊藤博文のような髭。


藍色の薄手の作務衣に、学校の便所にあるような木のサンダル履きだ。


男は俺が入ってきても、一度もパイプから目を離さずに磨いている。


俺は手前のソファーのところで「こんばんは」と言ったが、面倒くさそうにジロリとこっちを見ると、またパイプに目を落とした。






「西田の店」・・・だいぶ前に一度、玉井に連れてこられたことがあった。


玉井と二人でヤキトリ屋で飲んだあと、ここに寄った。3人ほど客のような人間がいて、西田はいなかった。


カウンターに座ると、玉井は勝手に二人分のバーボンを注いだ。2人で飲んでいると、長身で痩せた西田がフラリと帰ってきた。


玉井に少し微笑んでみせた、前歯は2~3本しか見えなかった。


それから玉井は「西さん、ちょっと」と言って、西田とともにどこかに消えた。


2人がいない間、俺はバーボンをチビチビやりながら、店の中を眺めていた。


西部劇やカウボーイに関する装飾品やアイテムもあれば、風神雷神や龍の衝立や小さい掛け軸のようなものもある。


店の隅には「グレッチ」というメーカーの小さいジャズドラムのセットが埃を被っていた。


また入り口近くの棚には、模造品か本物か判らない拳銃やライフルが無造作に積まれていて、日本刀やサーベルのような物も壁に立てかけられていた。


ビンテージと呼ばれるギブソンのレスポールやマーチンのギターが弦が切れたまま、虎の敷き皮の上に投げ出されていた。


キング・クリムゾンのファーストアルバムがレコードプレイヤーから流れていた。


俺はその空間にすっかり馴染んで、たまらなく居心地が良くなっていた。






・・・俺は勝手にスツールに腰掛け、以前来た時と同じように勝手にバーボンを注いだ。


「玉井は一緒じゃねえのか?」・・・背後からポツリと訊かれた。


「ええ、今夜は一緒じゃないです。」俺はストレートのまま流し込む。


「・・・お前、左腕縫わなきゃやべえぞ。」


俺はギクリとした。



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