3
「その汚ねえ服脱いで、シャワー浴びてこいよ。」
「ああ、そうさしてもらうよ・・・サルマタ貸してくれやな。・・・さてと。」
トシはゆっくりと身体を起こして、壁を手すりにしながらドアを開けて出て行く。
トイレとバスが一緒になった狭苦しいユニットバスに入る音が聞こえると、俺は大あくびをして壁掛けの時計に目をやった。
2:00
俺はトシがシャワーから上がったら、ヤツに怪我の理由を聞くか聞くまいか少しの間逡巡していた。
で、結局聞かないことにした。
もう深夜だし、明日も仕事だし。・・・何より面倒くさい。
トシの顔はポンコツになっちまってるが、見た目よりダメージ少なそうだし。
しばらくして「・・・わりいな、サンキュ。」と言いながら、ヤツが出てきた。
汚れを落としたツラは、さっきよりはいくらかマシなようだ。
トシの体格は俺とほとんど変わらないから、パンツもTシャツも違和感はない。
左足を少し庇いながらカーペットに腰を下ろす。
俺はガラスのテーブルにふたつのコップを出しておいた。
「少し飲むか?」
「ああ、安物のRED我慢して飲むわ。」
歪んだ顔をさらに歪めて笑った口の中は、やっぱり一本欠けていた。
二人でなんとなく乾杯してストレートのREDを飲む。
・・・沈黙の一瞬が息苦しくなるの判ってたから、見たくもないのにテレビをつける。
「夜中はテレビショッピングしかやってねえんだなー」
トシは右手の指にタバコを挟んだままコップを持ち、ちびちびと舐めていた。
それから半時間ほど飲んで、押入れから敷布団を引っ張り出して、俺の布団の横に敷いた。
普段は真っ暗にして寝るが、勝手の知らないトシが便所に行く時のために、オレンジ色の灯りは消さないでおいた。
俺はトシに背を向ける形で、というよりオレンジの灯りが目障りなので、横を向いて目を閉じた。
・・・結構酒が効いていて、横を向いてもグルグルしていた。
「なぁ、ショウ。」
「ん?」
「・・・命がけでなんかやったことあるかー。」
「・・・」
「死んでもいいから、みてえな。」
「・・・ねえな、そんなに熱くなることなんてあんのかよ、この世の中に。」
「・・・そうだよな、ねえよな。」
「寝ようぜ。」
「ああ、今夜悪かったな。」
・・・ウトウトして、眠れるかなと思った瞬間、隣から息を殺して泣く声が聞こえた。
記憶はそこまでで、俺は眠りに落ちていった。