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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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カザマは目玉と口を開けたまま、「信じられない」というような表情でくたばった。


死んでもなお、唇が小刻みに動いているのはただの痙攣のようなものなのか、俺に対する恨みの顕れなのか判らないが、どうでもいいことだ。


やるべきことを確実に遂行したまでだ。こんなヤツに、情状酌量の余地はない。






俺は血まみれの革手袋で額の汗を拭い、大きく息を吐いた。


「・・・トシよ、これで2匹目のうじを潰した。あとの1匹も必ず、俺がこの手でぶっ潰してやる。」


カザマの胸に垂直に突立てた匕首を見つめながら、俺はトシに誓った。






パチンコ屋のネオンがこぼれる薄暗がりで、俺は自分の姿を点検した。


カザマの腹を刺した時の返り血は、ヤツのジャケットに阻まれて少しの血痕が赤い水玉のようになっているだけだ。


だが、俺の左腕の傷から指先までは真っ赤に染まっていた。今も血は少しずつだが滴っている。


俺は客の出入りのまばらな瞬間を狙って、自分のクルマに駆け込んだ。


コンバースの靴紐を抜いて、腕の付け根をきつく縛り止血する。


やり方は知らないが、中学生ぐらいの時にそんなことを教わった気がしたからだ。


その上から車内にあったタオルを巻いた。


痺れる腕のまま、クルマを出してアパートへ向かう。


タバコに火を点けると出血のためか、アタマがくらくらした。


・・・自分の部屋に近づくほど嫌な胸騒ぎが迫ってきて、アパートの手前100mほどの脇道にクルマを停めて、歩いて向かった。


俺の予感は的中した。


部屋の玄関を見渡せる路地に黒いクラウンが駐車していて、運転席と助手席に人影がありタバコの火口が赤い点になって揺れている。


・・・誠龍のヤツらじゃなく、新津と片山だと瞬時に感じた。






真夏のこの時期、クシカワの死体はすぐに異臭を放ち、近隣の住民からの通報かなにかですでに警察は察知しているのかも知れない。


俺は足音を消し暗がりを選んでクルマに戻り、エンジンを掛けた。


「・・・あの部屋にはもう戻れないだろう、まともな生活に戻ることも出来ないだろう。」


俺は覚悟の上だ。だが最後のけじめだけは俺の命と引き換えにでも、なんとしてもやり遂げる。


・・・絶対にフジタを殺る。


出血のためか少し朦朧としながらクルマを出した。



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