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俺とカザマは一塊になってコンクリートの壁に激突した。
カザマは悲鳴を上げ背中を打ちつけた後、後頭部をぶつけズルズルとへたりこむ。
俺は叫びながら腹部に刺さったままのナイフを左に薙ぐ。
腹の皮と肉が切り裂かれる手応えを確かに感じた。
カザマは腹を押さえて転げ回り、「痛え!痛えよー!・・・死んじまう!死にたくねえ!死にたくねえ!・・・助けてくれ!救急車を呼んでくれ!」と喚く。
俺はヤツの背中を蹴飛ばし静かにさせ、胸のあたりを足で踏みつける。
「・・・大の男が3人掛かりで、何も知らねえ小娘を拉致して壊した上に、ひとりで乗り込んで来た男を寄ってたかってなぶり殺し、ゴミのように捨てやがって。」
俺の左腕は熱く痺れ、流れる血は指先から滴っていたが怒りのためか痛みを感じない。
「・・・これから訊くことに答えろ。」俺は静かに言った。
「・・・答えたら救急車を呼んでくれるか!」
即座にカザマのツラを蹴り上げる。
「取引きできる身分かどうかも判らねえのか?・・・まぁいい、呼んでやろうじゃねえか。」
カザマは恐怖で身動きひとつしなくなっていた。
極道の看板の下に吹き溜まったならず者なんて、一人になると臆病な腰抜けだ。
弱みを握った者からは徹底的に絞り取り、強い者には摺り寄り利権を漁ろうとしてるクズのどこが「極道」で「男」だと、俺は思った。
「・・・園部を殺したのは、お前とクシカワとフジタの3人だな。」カザマは黙ったまま頷いた。
「・・・どういう経緯でヤツを殺した。」
「・・・フジタの兄貴が、組に命令されて俺とクシカワは従っただけだ、・・・だから何も知らねえんだ、本当は殺したくなかったんだ!信じてくれ!」
「園部は全身アザだらけになるほど殴られ蹴られ、メッタ刺しされて捨てられた・・・そのやり方も組の命令か?」
「・・・いや、それはフジタの兄貴がそうしろと・・・本当だ!俺は殺りたくなかった!」
「クシカワは、匕首でメッタ刺ししたのはお前だと言ってたぜ。」
俺はカマをかけた、匕首を出した時のカザマの陶酔したような目つきは異常だったからだ。
「・・・クシカワが!・・・いや!嘘だ!あいつが刺したんだ!本当だ!」
俺は、なりふり構わず罪のなすり付けをして命乞いをしている無様なクズに嫌気が差した。
こんなヤツらにトシが殺されたなんて・・・。
カザマは脂汗にまみれ、呼吸はますます荒くなった。押さえた傷口から鮮やかな色の腸がはみ出ている。
「・・・お前みてえなうじ虫野郎は、医者に治してもらったところで、世の中のためにはならねえ。元気になったらどうせ弱い者をいじめて生きて行くんだろ?そんな生き方しかできねえクズだろうからさ。・・・なにが極道だよ。」
カザマは眼窩から飛び出しそうな眼で、俺を見つめた。
俺はアスファルトに転がったヤツの匕首を拾い上げると、「刃物キチガイのお前の匕首で死なせてやるよ。」と餞別の言葉を並べ、ヤツの心臓に渾身の力で突立てた。