26
カザマは左手で茶色のサングラスを取り、ジャケットの胸ポケットに仕舞った。
闇にヤツの三白眼が白く光り、俺を見据える。
俺とカザマの距離は3m、お互いに眼を逸らさない。
クシカワの野郎よりは骨がありそうだと、俺は唇の隅で微笑んだ。
・・・全くの無音、ピンと張り詰めた闇のど真ん中に獣が2匹。
緊張が鼓動と呼吸を荒くする、・・・この瞬間に耐えられない方が先に動き出す。
・・・吐き出す息とともに、カザマが突っ込んできた。
白く光る匕首が俺の左の腹に差し出される、俺は見切れた、右にかわす。
かわしざまにヤツにナイフを振る、カザマはすぐに身体を退け匕首を振り下ろす。
ほんの数ミリ俺の右腕がヤツの刃を避けた。
また睨み合う、お互いに息は荒くなっている。
俺は顎から汗が滴り、白いTシャツの背は汗で貼りついている。
カザマも同様に匕首を握る手から滴っている。
今度は俺が仕掛けた。
前のめりに姿勢を低くして、叫びながら体当たりでぶつかる。
刃物を持った相手に玉砕の形だ。
カザマは予期せぬ攻撃にたじろいだ。その表情を、俺は見逃さなかった。
一秒の何分の一か、一瞬の隙ができる。俺はぶつかりざまヤツの腹部を抉る。
ヤツの匕首は逃れる姿勢のまま俺の右腕に振り下ろされる。
俺の二の腕に激痛が走る、肉が断ち切られる感覚がはっきり判った。
だがそんな痛みは気にならない。
・・・「うじ虫とは覚悟が違う」そう俺は確信していた。
・・・トシの遺言になっちまった「死んでもいいから、命がけでなんかやったことあるか」のフレーズが耳を、アタマを過る。
聞き流してしまった自分への憤りと、眼前の「凶の根源」への復讐心、俺は真剣に鬼と化していた。
俺は言葉にならない叫びとともに、ナイフを突立てながらカザマを押しやる。
ヤツは完全に怯んでいた、腹を刺され死ぬことの恐怖に駆られ、戦う意識を失くしていた。
そのままコンクリートの壁まで突進する前に、カザマは悲鳴を上げていた。