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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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アパートの駐車場にクルマを入れ、エンジンを切る。向かいに見える窓は皆、カーテンは閉まったままだ。


同じ棟に住む者が人を殺して血まみれになって帰って来てるなんて、誰も夢にも思わないだろう。


グローブボックスの拳銃を尻ポケットに突っ込み、鍵をぶら下げて自分の部屋の玄関に立つ。


今まで平穏に暮らしてきたこの部屋にも不吉な影が迫ってるように思えて、慎重に鍵を開け中に入る。


何も変わったことがないのに安堵してポケットの拳銃とナイフをテーブルに置き、ユニットバスに入る。


灯りを点けた鏡に映った自分の顔に息を呑んだ。


タオルで拭き残したクシカワの血が髪の毛や首筋にへばりついて、どす黒く滲んでいる。


それよりも俺の眼が「獲物を喰い殺して糧にする獣」のように、ギラギラと茶色く光っていた。


血に染まった黒いTシャツ・ジーンズ・薄い革手袋・キャップを、スーパーのビニール袋に丸めてつっこむ。


素っ裸になりシャワーを浴びた。シャンプーで頭を洗い石鹸で身体を洗っても、穢れた身は洗い尽くせないような気持ちだった。






カーテン越しに明るくなる窓は、梅雨が明けて本格的に暑くなる日差しの強さだ。


大瓶のREDに口をつけてラッパ飲みすると、空腹の臓物の隅々まで沁みわたった。






・・・突然部屋のチャイムが鳴った。俺はギクリとなり鼓動は早くなる、時計を見た。 


5:05


もう一度チャイムは鳴る。・・・俺は玄関まで行き魚眼レンズを覗く。


ドアの向こうには玉井が立っていた。ほっとして解錠してドアを開けた。


玉井はだいぶやつれた顔で「・・・夕べ来たらいなかったからな、・・・これ。」と言ってビニール袋を俺に差し出した、酒・タバコ・缶詰・パン・・・。


まるで災害に遭った被災者の見舞いのように感じた。


「・・・美弥ちゃんはまだ現実を受け入れられねえみてえだ・・・お前に会いたがってたがな。」


「・・・そうすか、少し待っててくれって言っといてもらえますか。」


「・・・仕事しばらく休むって言ったんだってな、松木がぼやいてた。・・・お前の気持ち考えると無理ねえがな。」






・・・俺は汚れ物の入ったビニール袋を持ってきて、玉井に差し出した。


「社長、悪いんですがこのゴミ、焼却炉で始末してもらいてえんですけど。」


玉井はそれを覗き込み、大きく眼を見開いた。


「・・・ショウ、これ・・・。」


「うじ虫を一匹潰しましたよ、一匹目をね。」


「・・・お前は。」


間髪入れずに言った。


「社長はトシを自分の息子のように可愛がってくれた、・・・でも俺は社長以上にあいつとのつきあいは長いし、俺等は俺等の絆ってもんがある。許せないこと許しちゃいけねえことってもんが俺にはあるんですよ。」


玉井の目から涙がこぼれた。


「・・・どうしてお前らは馬鹿なんだ、トシも馬鹿だがショウ、お前は大馬鹿だ・・・。」


俺は返す言葉が見つからず、黙っていた。


玉井は踵を返すと言った、「・・・ショウ、お前が死んだら俺は本気で怒るぞ!・・・誠龍は皆殺しにする。」



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