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俺は布団から上体を起こし、部屋の隅に置いてある懐中電灯を手探りでつかむ。
そいつは目標を照らすライトの他に、蛍光灯・黄色いハザード・赤いシグナルのついた馬鹿デカい懐中電灯。
そろそろとカーテンをめくり、ガラスの向こうにライトを向ける。
一瞬ギョッとなった。
ただでさえ異常な時間の異常な訪問客。
照らされた男の顔は左瞼が大きく腫れあがり、鼻から頬にかけて乾いた血がこびりつき、半開きの唇から血混じりの唾液を垂らしている。
「・・・トシユキか?」
・・・園部俊之。俺が高校の頃からつきあってる悪友。
本当は気のいいヤツなのにそれを隠すかのように、いつも虚勢を張って街中でトラブルを起こす。
腕力もないクセにケンカを売ったり買ったり、酒も弱いクセに「駅前の砦って飲み屋にお前の好きなバーボン入れといたから、好きなだけ飲めよう」ってカッコつける。
優しさをカモフラージュするためにイキがってる不器用で憎めない男、それがトシユキ。
鍵を開けガラスを開けると、「ショウ、わりい・・今夜泊めてくれねえか。」と言い、その場にへたりこんだ。
トシの靴を脱がせ部屋に引きずりこみ、キッチンの雑巾を固く絞ってヤツの薄汚れたツラを拭いてやる。
「おー、痛えよー!」と開けた口の前歯は欠けていて、老人の不衛生な口の中みたいだと思った。