19
201の部屋のドアには居住者の名前を示すものはなかった。
部屋にたどり着くまで、ヤツ以外の同居者がいるのかどうか、考えもしなかった事に気付く。
・・・いたとすれば、運が悪かったと思ってもらうしかない。とんでもなく不運だが仕方ない。
革手袋をはめた左手でチャイムを鳴らす。
しばらくして面倒くさそうに「・・・誰だ?」とクシカワの声が聞こえてくる。
俺はドアの蝶番側に身を寄せる。しばらく沈黙があり、玄関から遠ざかる足音がかすかに聞こえてくる。
今度は2度チャイムを押す。
・・・しばらくドアの外を警戒している気配がして、「さっきから誰だ!何時だと思ってんだ!」とドアが開くが、内側のチェーンは掛けたままだから、蝶番側にいる俺の姿は当然見えない。
・・・下っ端ヤクザなんて、独りになればなんと臆病なものよ・・・。
俺は気配を消して唇をゆがめて笑った。
また玄関から遠ざかるのを見計らって、今度は2秒おきに等間隔でチャイムを鳴らす。
チャイムは正確に執拗に部屋に響いてるだろう。
・・・5分間ほど鳴らし続けた頃、足音を鳴らしてヤツが近づいてきた。
「いい加減にしろ!俺を誰だと思ってやがんだ!」と、ドアが大きく開き拳銃を握った右手が出てきた。
俺は尻ポケットのブラックジャックを、その右手首に振り下ろす。
鈍い手応えがあり、悲鳴とともに拳銃はコンクリートの廊下の床に落ち、慌てて前のめりになって拾おうとするクシカワの上半身がドアの外に顕れる。
その首筋に少し手加減して、ブラックジャックを叩きつける。
廊下に悲鳴が響き、蹲ろうとするヤツの正面に立ち、右足でそのツラに蹴りを入れ玄関の中へ蹴り入れる。
コンバースを履いたまま、悲鳴を上げるクシカワを廊下へと蹴り込む。
すばやく廊下に落ちたオートマチック拳銃を拾い上げ、尻ポケットに突っ込む。
初めて手にした拳銃の重さを実感したが、そんなことに構ってる暇はない。
・・・後ろ手でドアを閉め施錠し、鳥のように喚くヤツの後頭部に一撃を入れると、あっけなく気絶した。