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新津はYシャツの胸ポケットから「わかば」を取り出して、マッチで火を点けた。
ひと息煙を吐き出し煙たそうに俺を見た。
「・・・殺り方、遺体の捨て方が残酷なんですよ・・・、非情なリンチみたいにね。」
・・・玉井が脱力した顔で、こっちに歩み寄ってきた。
「・・・刑事さん、昨夜の10時は俺もこいつもあそこで泣いてる小僧も、俺のスタンドに居ましたよ・・・トシの行方が判らないんで、その相談してましたよ・・・。」
「そうですか、了解しました。」新津は片山にあるかなきかの目合図をして、その場を離れた。
「・・・ちくしょう!どこのどいつがトシをこんなひでえ目に!」
玉井はまた崩れ折れた。
・・・俺はむせび泣いている克也のそばへ行き、照明の当たっていない暗がりに連れ出した。
「・・・お前、クシカワって名前聞いたことねえか?」
「・・・クシカワ・・・少し前に、俺が仕事終わって帰ろうとしている時に、ガラの悪いヤツらが乗ったセンチュリーが入ってきて、トシさんとなんか話してたんすよ・・・。」
克也は、しゃくり上げながらなんとか話した。
俺は誰かに聞かれていないか、周囲に気を配った。
「・・・それでヤツらしばらくして帰ってったんすけど、そん時にトシさんが『クシカワの野郎・・・』って言ってました・・・もしかして?・・・」
俺は克也に目配せをして、「このことは誰にも言うんじゃねえぞ、警察にもな。」と念を押した。
やがて、トシの遺体は警察の車輌に載せられて行った。
俺と玉井と克也は、その赤いテールランプを無言で見送っていた。
新津が背後から、玉井に話しかけた。
「・・・お気持ちお察ししますが、お聞きしたいことがありますんで、このまま署の方へお願いします。」
玉井が力なく頷いた、ガックリ頭を下げたままだった。
警察車輌は慌しく帰り支度をしている。
新津が俺のそばを通り過ぎざま、「・・・お前、復讐なんか考えるんじゃねえぞ、山浦。」と言った。
その眼は今まで見たことのない「修羅場の獣」のような鋭さだった。
「・・・クシカワ。」
俺のアタマには、あの皺くちゃのメモが過っていた。