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夜明けの疾走  作者: 村松康弘
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13


2台のセダンは市街地を外れ突っ走る。


やがて、この街を流れる二つの川が合流する橋へ続く堤防道路を駆け上がる。


そしてしばらく走った後、広い河川敷へ下りる農道に入る。


河川敷といっても辺りはほとんどが畑だ。


・・・赤いパトライトの群れが見えてきた。


玉井のクルマも俺のクルマも乾いた土埃を巻き上げ、道路の砕石を弾き飛ばしながら、その光に近づいていく。


ヘッドライトの輪の中に、数人の警察官が動いているのが見えた。


玉井のグロリアのブレーキランプが点き、路上に停車する。


俺も停車し急いでドアを開けると、グロリアの助手席から克也が飛び出し、叫び声を上げながらパトライトの中へ走っていった。


俺と玉井もドアも閉めずに走っていく。


克也が二人の警察官に止められ、泣き喚きながら抵抗している。


「立ち入り禁止」の帯の向こうから、白い手袋をはめた目つきの悪い男が歩み寄り、「玉井さんですか?」と聞く。


黙って頷いた玉井に片手で「どうぞ」と合図し、帯を上に持ち上げた。


玉井と俺は帯をくぐり中に入る。


パトカーの開けた窓からひっきりなしに入る警察無線の音が、闇の川に響き続ける。





・・・玉井が「間違いないです、トシ・・・園部俊之です・・・」と言い、膝から崩れ両手をつき声を殺し肩を震わせた。


サーチライトに照らされた「園部俊之」の死体は、まるで過激派のリンチ殺人のように無数の刺し傷だらけ、面白半分に殴りまくったようなひどい殴打跡がついていた。


・・・半開きの口は前歯が一本欠けたままだ。


どこか別の所で殺られてこの場所へ放り出されたように、生きた人間のする姿勢じゃなかった。


俺は表情を失くしていた。


「怒り」などという言葉では括り切れない、身体の奥深くから滲み出る激しい憎悪で心臓が破裂しそうだ。






・・・俺の無二の親友・3日前の夜に安物ウイスキーで乾杯して泊まっていった相棒・どこまでも不器用で純粋で照れ屋な男。




・・・目の前にあるのは声を掛けても永遠に返事などしない、ただの「屍」。


俺は不自然な姿勢をした「園部俊之」を見つめていた。


トシは俺のアパートに泊まった時に出してやった黒いTシャツを着ていた。


サントリーRED・テレビショッピング・「命がけでなんかやったことあるか?」・・・・・。


たった数日前の出来事なのに。






・・・背後から声を掛けられた。振り向くと30ぐらいの角刈りの男が警察手帳をかざし、


「失礼ですが、お名前は?」と聞いてきた。


俺は自分の名前を名乗った。そしてトシとの関係も聞かれ、簡単に答えた。


「・・・失礼ですが、夕べの10時頃はどこにいらっしゃいましたか?」


両耳が柔道をやっていたらしく特異な形をしていて、俺を見つめる眼は寸分も動かずに射抜いている。


俺はその質問と柔道刑事の存在に嫌悪感を覚え、目を逸らさぬまま無言を通した。


「山浦さん、黙秘権を使うのは暗いとこに入ってからですよ。」


・・・俺は挑発とは知りながらも、この柔道野郎に敵意を覚えた。


「・・・まあまあ片山君、・・・山浦さんすいませんね、まあ職業病ってヤツでね。私は新津って者です。」


定年近いだろうと思われる、白髪混じりの痩せた刑事が微笑みながら割って入ってきた。


多分、いつもコンビでこういう動きをしているんだろうと思ったが、


片山が俺に質問している最中、少し離れたところから新津の鋭利すぎる空気を感じていた。


それは片山の眼力の比ではなかった。



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