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カセットもラジオも掛けずに渋滞をやり過ごし、玉井のスタンドに着いた。
「いらっしゃいませー!・・・ああ、ショウさんか、お疲れです!」
今年の春、バイトで入ってきた高校3年の黒岩克也。
バイクに給油する客だったがトシと仲良くなり、いつもトシと一緒にいたいがために、バイトを志願して雇ってもらったヤツだ。
俺は灯油の給油場所の隅にクルマを止め、事務所のドアを開ける。
「・・・よう。」
玉井は伏目がちにガラスの灰皿でタバコを消した、俺は向かい合わせのビニールレザーのソファーに腰を下ろす。
「・・・トシからなんも連絡ねえから、念のために石和のヤツのおばさんに電話してみたんだよ。」
「ああ、お袋さんの姉さんって人?」
「・・・うん、したら美弥ちゃん預かってるって言うんだよ・・・。」
「・・・・・」
「・・・昨日、トシが連れて来たんだって。・・・そんで二人とも様子が変だったから、いろいろ聞いてみたけど何も話さなかったらしい。」
「・・・・・」
「・・・で、今朝ヤツがただならぬ顔で『美弥の面倒お願いします』っつって出てったらしいんだわ。」
「・・・・・」
「・・・おばさん、そこまで言ったら涙声になっちまってるから、俺も聞きづらかったんだけど・・・。」
「・・・どうしたんすか?」
俺は背中から逆毛立つような不安が湧き上がってきた。
「・・・トシがいなくなってから、美弥ちゃんに時間掛けて話したら・・・どうやら強姦されたらしい。」
胸に鉛が閊えて、頭がジンジンしてくる。
「・・・3人らしいんだよ。」
俺と玉井社長は、そうするしかないというようにタバコに火を点ける。
吸い終わるまで二人とも無言だった。
「・・・トシ、長野に帰って来てるはずっすよね・・・。」
タバコを「くの字」にひねり潰しながら、俺は言ってみる。
「・・・だろうな、そんで連絡はお前に来るだろうから、頼むぜショウ。」
玉井のスタンドを出てトシのアパートへ向かった。
予想通り灯りもないしクルマもない。郵便受けには電気使用量の紙きれが挟まってるだけだ。
俺は部屋の玄関が見える場所にクルマを停め、シートを倒した。