10
外は変わらず土砂降りだった。
自分のアパートに辿りつくまで、俺の脳は目の前の景色を認知していなかった。
「・・・おおげさに考えることじゃねえよな。」口に出してみる。
玄関を開け6畳の部屋のカーペットに寝転がりテレビをつける、プロ野球ニュースがやっていた。
・・・テレビの画面にハエが一匹止まった。
俺はゴミ箱の横に置いてある殺虫剤に手を伸ばす。ふと、ゴミ箱の中に目が行った。
丸められた紙屑がひとつ、拾い上げ伸ばしてみた。
「クシカワ アキノブ 2**-****」鉛筆で書いたトシの字だ。
テーブルの上に置き「クシカワ」なる人物を自分の記憶と照らし合わせてみる。
思い当たる人間はいなかった。
6:00
・・・いつもの時間に目が覚めた、いつの間にか眠っていたようだ。
カーテンを開けると昨日の雨は止んでいて、朝から晴れている。
俺はいつものようにジーンズをはき、クルマに乗り込み会社へと向かった。
いつもの道をいつも通りに走る、・・・ただアタマの中はトシの行方と「クシカワ」という人物のことが渦を巻いている。
今日の担当車両は、ありきたりの1500ccのセダンの車検。
5年前のクルマだから2回目の車検。安普請のクルマだから壊れるところは大抵決まっている。
リコールで対応するほどではない頻度の事例の場合、メーカーから「点検依頼」の通達が回って来ている。
このどうでもいいクルマは異常なしだった。
19:00
整備を終えリフトからクルマを降ろしていると、「山浦、玉井のオヤジから電話だぞ」と工場内スピーカーで呼ばれた。
ウエスで手を拭いながら事務所に入り、受話器を取る。
「・・・ショウさ、これからウチに来れねえか?」
「なんかあったんすか?」
「・・・うーん、電話じゃさ・・・とにかく来いや。」
「わかりました。」
手早く着替えてタイムカードを挿し、クルマに乗り込む。
夕闇の市街地はいつも通り混雑している。