第一章12 女神と冒険者と新たな仲間(1)
数時間ぶりの地上の明るさに、俺は思わず目を細める。
日差しの入らないダンジョンの暗闇に目が慣れていたせいで、地上に降り注ぐ太陽の光が痛い。
「無事、ダンジョンは攻略できたな……攻略はできたけれど……」
グーグリオとの戦闘に慣れたとはいえ、グーグリオの赤い眼光に抱いた恐怖心は最後まで消えなかった。
何とか攻略できた。
それが、正直な感想だった。
このままの精神状態なら、魔王討伐をやり遂げる前に力尽きてしまうだろう。
魔物との戦闘を重ねて、この世界の「常識」に慣れていかなければ……。
最終的な目標である魔王討伐までの道のりは随分と長いことを悟り、不安を覚える俺だった。
〜〜〜〜〜〜〜
ダンジョンの門のそばから、葉が擦れる音が聞こえた。
振り返ると、一人の少女が木陰から飛び出してきた。
短剣を握りしめる両手がガタガタと震えている。
「あ、あの……! こ、……あ……その……っ」
どうしたのだろう。
「ひぃ、殺さないでください……!」
……俺が魔物か何かに見えているのだろうか。
「どうしたの? 何に怯えているの?」
「あ、あなた……正体を教えなさいっ!」
「正体を教えろ、だって……? 俺はただの冒険者だよ」
「……ち、ちが……違います……ただの冒険者なはずありませんっ……!」
少女の両足はがくがくと震えている。
「冒険者だよ。ギルドの認定書だってあるし……」
「そ、そんなわけないですっ。だって、私……見ちゃったんです。崩れ落ちたダンジョンの壁を……!」
少女は揺れる視線で俺の顔を睨みつける。
ああ、これはまずい。
「ダンジョンは、ただの冒険者に壊せるはずがありませんっ! だから、……うそっ……つかないで、ください!」
少女の怯えた目からは今にも涙がこぼれそうだ。
ほう。
「……くっくっく……」
「な、なぜ笑っているのですか!」
「まさか、見られていたとは……。おとなしくしていれば、痛くはしない」
「や、やめ……」
「恨むのなら、そなたの不運を恨めっ!」
「ごめんなさいごめんなさいっ……!」
俺の右手が大剣の柄を掴む。
「うぉおおりゃあああ!!!」
「うわぁああああ!!」
ぐほお゛っ。
背中に受けた衝撃に顔を歪める。
揺れる視界の端に捉えた、女神リリア。
「そこまでよ」
「あ、あなたは……!」
「正義の味方、リリア様よ」
「り、りりあさま……?!」
リ、リリア様だと……!
「人を貪る邪悪な魔物よ、覚悟しなさい!」
女神のドロップキック。
「ぐをおおぉ!」
地面に叩きつけられた衝撃が頭に響く。
リリアの足裏に背中を押し潰される。
「ぐ、ぐおー。こ、降参。降参します……」
女神リリアの高らかな笑い声が正義の勝利を知らせる。
こうして少女に訪れた危機は去っていった……。
少女はリリアに頭を下げる。
「あ、ありがとうございますっ!! わ、私、ルイン・ネア・スイっていいます。あの、どうやってお礼をしたら良いか……」
「いいのよ、礼なんて要らないわ。私は冒険者リリア。よろしく」
固く握手を交わすリリアとスイであった。
スイは地面に這いつくばる俺を一瞥して、リリアを見る。
「ところで、リリアさんはどうしてこんなところに?」
〜〜〜〜〜〜〜
リリアの説明によってスイはすべてを理解した。
「ごめんなさいっっ!! ほんっとうに、ごめんなさい!! わ、私勘違いして……!」
「全然大丈夫だよ」
「それに、私のせいで、ひどいけがを……」
スイは背中を擦っている俺を申し訳なさそうに見つめる。
多少は痛むが、転生者の特権あるいは女神の加護によって、受けた衝撃に値するほどの痛みは感じなかった。
「それはこいつのせいだから……」
「てへっ」
覚えてろよ……!
「あ、そ、そうだ! 私、回復薬はたくさん持っているんです。それを使えば……」
少女が肩にかけたバッグを探る。
少女の右手に握られたのは、紫色の液体が入った小さな瓶だった。
少女に地面にうつぶせで伏せるよう促される。
「少し痛みますが、じっとしていてくださいね」
少女は服をめくって赤く腫れ上がった俺の背中に瓶の中身を垂らす。
「いっっだああ!」
「大丈夫ですよ。痛みはすぐ引きますからね」
少女の右手が背中を撫でる。
「あ゛あ゛あ゛あぁああ!」
火に焼かれているような感覚が背中全体に広がる。
しかし背中に走る激痛が引いたあと、リリアの靴で抉られた痛みはすっかり消えていた。
「はい、もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
「すごいわ! あんなに赤く腫れていた背中もすっかり元通りよ」
俺の背中を見て女神は目を輝かせる。
俺と女神は顔を見合わせる。
(これは……またとないチャンスだわ!)
少女の両肩を掴んだリリアは少女の目をまっすぐに見る。
「ねえ、スイちゃん、私たちのパーティーのメンバーにならない?」
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Q. そうだ、スイならダンジョンの宝箱の中に入っていたポーションの効能がわかるかも。
A.
「スイ、これって何のポーションかわかる?」
瓶を開けて手で仰いでにおいをかぐスイ。
慎重な顔つきで、中身の液体を地面に垂らす。
そして、恐る恐る瓶を口につける。
「こ、これは……!」
ま、まさか……!
「ただの水ですね」
スイによると、低級ダンジョンではよくあることらしい……。
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