61 勇者召喚?なるほど、処分前提...なのか?
最終話です
玉座の間は華やかだった。
絨毯は新しく敷き替えられ、柱には幾重もの旗。
楽士が控え、貴族たちが整列している。
そこは、魔王城とは正反対の場所だった。
光があり、秩序があり、祝福に満ちている...ように見えた。
玉座に座る王が、立ち上がる。
「勇者、相川恒一よ」
その声はよく通り、威厳があり、そして温かかった。
「そなたは、ついに魔王を討ち果たした。四天王をすべて退け、世界を救ったのだ」
どよめき。
拍手。
賛辞。
用意された言葉が、流れるように並べられていく。
「王国を代表し、心から感謝する。褒美は、望むだけ与えよう。金、地位、領地、名誉――望むものすべてだ。」
一拍置いて、王は続けた。
「そして、盛大な祭りを催そう。世界を救った勇者の凱旋として。」
さらに。
「その後、勇者殿を元の世界へ帰還させる手筈も整えてある。」
その言葉に、場の空気が一段明るくなった。
「……」
俺は、黙って一礼した。
「身に余る光栄です。ありがとうございます。」
口では、そう言った。
だが内心では、別の声が響いていた。
(……出来すぎてる)
王が、国が、優しすぎる。
話がスムーズすぎる。
そして。
「身に余ることなどない。当然のことだ。」
王は、穏やかな笑みを浮かべたまま言った。
「望むなら、この国に残ってくれてもよい。むしろ王国としては、その方がありがたい。勇者が国にいる、というのは、国の最大の象徴となる。」
貴族たちが頷く。
衛兵も、魔導士も。
(……本当に?)
俺は、一つだけ確認することにした。
「帰還、とのことですが……どのような方法で?」
王は視線を横に向けた。
「説明せよ。」
宮廷魔導士が前に出る。
分厚い資料を抱えて。
「はい。こちらが、帰還の魔法陣です」
広げられたのは、複数の図面。
「数々の文献と記録を基に再現されたものです。歴代の勇者様も、これを用いて元の世界へ帰られたと伝えられています。」
俺は、その図面を見下ろした。
(……理論は、合ってる)
座標設定。
世界干渉式。
固定構文。
俺が集めた資料と、方向性は同じだ。
だが。
(……微妙に違う)
魔力の流し方。
安全装置の配置。
帰還先の指定方法。
理論上は成立する。
だが...
(本当に、元の世界か?それとも、どこか別の場所か?)
罠があるとは言い切れない。
だが、無いとも言い切れない。
俺が見つけられないだけで、どこか構築に穴がある可能性もある。
俺は、顔には出さず、ゆっくりと口を開いた。
「……ありがとうございます,」
そして、少しだけ間を置いてから続ける。
「ですが、少し時間をいただきたい。」
玉座の間が静まる。
「魔王を倒した世界を、この目で見て回りたいのです。自分が関わった世界が、どんな世界なのかを。」
王は一瞬だけ考える素振りを見せ──すぐに頷いた。
「無論だ。勇者殿の望むままに。」
そして続けて言う。
「その間の旅費、食料、装備も用意させよう。」
完璧な返答。
引き留める理由も、拒む理由も与えない。
(……)
信用できないわけじゃない。
だが、自分の命を預けるには、足りない。
※※
数日後。
俺は旅に出た。
表向きは、世界を見て回るための放浪。
人々は、笑顔で見送った。
だが実際は...
人の気配のない森の奥。
魔力の流れが安定した場所。
俺は、地面に手をついた。
(……ここだ)
褒美として受け取った素材。
自分で組み上げた理論。
誰にも触らせてはいけない、魔法陣。
「……さて」
俺は、静かに息を吸う。
「帰る準備を始めようか。」
世界を救った勇者は、誰にも見られない場所で帰還のための魔法陣を描き始めた。
※※
出来上がった魔法陣は、完璧だった。
理論も。
構造も。
素材も。
魔力の流し方に無駄はなく、座標指定も明確。
帰還先は、俺のいた世界。
(……これで、帰れる)
森の奥。
人の気配はない。
誰にも邪魔されない。
俺は魔法陣の中心に立ち、起動構文を唱えた。
魔法陣が淡く光る。
成功だ。
あとは転移を待つだけ...
その瞬間だった。
別の魔力が、強引に割り込んできた。
「……っ!?」
空間が、軋む。
魔法陣の光が歪み、座標が揺らぐ。
(何だ!? 干渉!?)
止めようとする。だがもう遅い。
起動した魔法陣は、途中停止できない。
流れ込んだ魔力が、無理やり行き先の座標を書き換えていく。
「待て、待て待て待て!」
抗う暇もなく、光が爆発的に広がった。
※※
次に意識が戻ったとき。
俺は、硬い床の上に立っていた。
高い天井。
壁には豪奢な装飾。
赤い絨毯が一直線に伸びている。
これはまるで...
玉座の間。
(……は?)
嫌な予感が、全力で警鐘を鳴らす。
そして正面。
玉座に座る人物が、ゆっくりと立ち上がった。
王冠。
威厳のある佇まい。
そして、いかにも『それっぽい』声。
「突然の召喚、許してほしい──勇者よ。」
周囲には魔導士。
兵士。
貴族らしき人影。
全員が、期待に満ちた目で俺を見ている。
「どうか我らの世界を救ってほしい。」
俺は、ゆっくりと周囲を見渡した。
見覚えのない顔。
知らない言語体系。
まったく別の魔力の流れ。
──ここは、さっきの世界じゃない。
そして。
(……俺、また)
天井を見上げる。
深く息を吸う。
そして、全力で叫んだ。
「またかよ!!!!!!!!!」
世界は、まだ続いている。
しかも、どうやら──
次の世界でも、俺は勇者らしい。




