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勇者召喚されたけど、勇者の結末はロクでもないのが相場なので疑ってかかってます~やだこの勇者全然言うことを聞いてくれない~  作者: ターシ


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61/62

61 勇者召喚?なるほど、処分前提...なのか?

最終話です


 玉座の間は華やかだった。


 絨毯は新しく敷き替えられ、柱には幾重もの旗。

 楽士が控え、貴族たちが整列している。


 そこは、魔王城とは正反対の場所だった。

 光があり、秩序があり、祝福に満ちている...ように見えた。


 玉座に座る王が、立ち上がる。


「勇者、相川恒一よ」


 その声はよく通り、威厳があり、そして温かかった。


「そなたは、ついに魔王を討ち果たした。四天王をすべて退け、世界を救ったのだ」


 どよめき。

 拍手。

 賛辞。


 用意された言葉が、流れるように並べられていく。


「王国を代表し、心から感謝する。褒美は、望むだけ与えよう。金、地位、領地、名誉――望むものすべてだ。」


 一拍置いて、王は続けた。


「そして、盛大な祭りを催そう。世界を救った勇者の凱旋として。」


 さらに。


「その後、勇者殿を元の世界へ帰還させる手筈も整えてある。」


 その言葉に、場の空気が一段明るくなった。


「……」


 俺は、黙って一礼した。


「身に余る光栄です。ありがとうございます。」


 口では、そう言った。

 だが内心では、別の声が響いていた。


(……出来すぎてる)


 王が、国が、優しすぎる。

 話がスムーズすぎる。


 そして。


「身に余ることなどない。当然のことだ。」


 王は、穏やかな笑みを浮かべたまま言った。


「望むなら、この国に残ってくれてもよい。むしろ王国としては、その方がありがたい。勇者が国にいる、というのは、国の最大の象徴となる。」


 貴族たちが頷く。

 衛兵も、魔導士も。


(……本当に?)


 俺は、一つだけ確認することにした。


「帰還、とのことですが……どのような方法で?」


 王は視線を横に向けた。


「説明せよ。」


 宮廷魔導士が前に出る。

 分厚い資料を抱えて。


「はい。こちらが、帰還の魔法陣です」


 広げられたのは、複数の図面。


「数々の文献と記録を基に再現されたものです。歴代の勇者様も、これを用いて元の世界へ帰られたと伝えられています。」


 俺は、その図面を見下ろした。


(……理論は、合ってる)


 座標設定。

 世界干渉式。

 固定構文。


 俺が集めた資料と、方向性は同じだ。


 だが。


(……微妙に違う)


 魔力の流し方。

 安全装置の配置。

 帰還先の指定方法。


 理論上は成立する。

 だが...


(本当に、元の世界か?それとも、どこか別の場所か?)


 罠があるとは言い切れない。

 だが、無いとも言い切れない。

 俺が見つけられないだけで、どこか構築に穴がある可能性もある。


 俺は、顔には出さず、ゆっくりと口を開いた。


「……ありがとうございます,」


 そして、少しだけ間を置いてから続ける。


「ですが、少し時間をいただきたい。」


 玉座の間が静まる。


「魔王を倒した世界を、この目で見て回りたいのです。自分が関わった世界が、どんな世界なのかを。」


 王は一瞬だけ考える素振りを見せ──すぐに頷いた。


「無論だ。勇者殿の望むままに。」


 そして続けて言う。


「その間の旅費、食料、装備も用意させよう。」


 完璧な返答。

 引き留める理由も、拒む理由も与えない。


(……)


 信用できないわけじゃない。

 だが、自分の命を預けるには、足りない。


※※


 数日後。


 俺は旅に出た。


 表向きは、世界を見て回るための放浪。

 人々は、笑顔で見送った。


 だが実際は...


 人の気配のない森の奥。

 魔力の流れが安定した場所。


 俺は、地面に手をついた。


(……ここだ)


 褒美として受け取った素材。

 自分で組み上げた理論。

 誰にも触らせてはいけない、魔法陣。


「……さて」


 俺は、静かに息を吸う。


「帰る準備を始めようか。」


 世界を救った勇者は、誰にも見られない場所で帰還のための魔法陣を描き始めた。


※※


 出来上がった魔法陣は、完璧だった。


 理論も。

 構造も。

 素材も。


 魔力の流し方に無駄はなく、座標指定も明確。

 帰還先は、俺のいた世界。


(……これで、帰れる)


 森の奥。

 人の気配はない。

 誰にも邪魔されない。


 俺は魔法陣の中心に立ち、起動構文を唱えた。


 魔法陣が淡く光る。


 成功だ。

 あとは転移を待つだけ...


 その瞬間だった。


 別の魔力が、強引に割り込んできた。


「……っ!?」


 空間が、軋む。

 魔法陣の光が歪み、座標が揺らぐ。


(何だ!? 干渉!?)


 止めようとする。だがもう遅い。


 起動した魔法陣は、途中停止できない。

 流れ込んだ魔力が、無理やり行き先の座標を書き換えていく。


「待て、待て待て待て!」


 抗う暇もなく、光が爆発的に広がった。


※※


 次に意識が戻ったとき。


 俺は、硬い床の上に立っていた。


 高い天井。

 壁には豪奢な装飾。

 赤い絨毯が一直線に伸びている。

 これはまるで...


 玉座の間。


(……は?)


 嫌な予感が、全力で警鐘を鳴らす。


 そして正面。

 玉座に座る人物が、ゆっくりと立ち上がった。


 王冠。

 威厳のある佇まい。

 そして、いかにも『それっぽい』声。


「突然の召喚、許してほしい──勇者よ。」


 周囲には魔導士。

 兵士。

 貴族らしき人影。


 全員が、期待に満ちた目で俺を見ている。


「どうか我らの世界を救ってほしい。」


 俺は、ゆっくりと周囲を見渡した。


 見覚えのない顔。

 知らない言語体系。

 まったく別の魔力の流れ。


 ──ここは、さっきの世界じゃない。


 そして。


(……俺、また)


 天井を見上げる。

 深く息を吸う。


 そして、全力で叫んだ。


「またかよ!!!!!!!!!」


 世界は、まだ続いている。


 しかも、どうやら──

 次の世界でも、俺は勇者らしい。



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