59 勇者は、魔王と決着をつける。
三つの力。
破壊、創造、均衡。
本来なら互いを打ち消し、循環するはずの権能を、魔王アルバ・レウスは無理やり同時に解き放った。
均衡が噛み合わない以上、その反動はすべて外へ向かう。
逃げ場のない、全方位の暴力。
爆音が遅れて耳に届き、瓦礫が床に落ちる音が続く。
その中心で――俺は障壁を張り、剣を地面に突き刺し支えにしたまま立っていた。
全方位の衝撃波。どこにも逃げ場はない、吹き飛ばされる。
ならば、逃げずに堪える。ただの根性だ。
やがて衝撃波は止んだ。
障壁は砕けている。
服は裂け、体のあちこちが熱を持っていた。
だが、倒れてはいない。
(……耐えた)
視線を上げる。
瓦礫の向こう。
魔王アルバ・レウスも、立っていた。
だが――
息が荒い。
肩が上下している。
腕から、血が滴り落ちている。
均衡は、戻らない。
正規化によって止められた回復は、もう働かない。
それでも、魔王は背を伸ばしていた。
「……耐えたか」
低い声。
驚いた様子はない。
魔王は、トリス・レギオンを構え直した。
王の武器、三叉の槍。
だがその魔力の流れは明らかに乱れている。
無理をした。
王の力を、最後まで振り絞った代償。
「来い、恒一」
短い言葉。
俺は剣を引き抜き、一歩踏み出す。
迷いはない。
魔王も、踏み込んだ。
剣と槍が、正面からぶつかる。
――激突。
衝撃が走り、腕が痺れる。
だがその瞬間、これまでとは違う感触が、俺の手に伝わった。
鈍い音。
金属が、悲鳴を上げる。
トリス・レギオンの柄に、亀裂が走る。
もう一度、打ち合う。
今度は――はっきりと、折れた。
槍の中央が砕け、三叉の均衡を保っていた構造が崩れる。
王の武器は、その役目を終えた。
魔王は、折れた槍を見下ろす。
一瞬。
本当に一瞬だけ、目を伏せ――
それでも。
魔王は、その折れた槍を、俺に向けて突き出した。
「折れても……これは、王の刃だ」
届くはずがない。
力も、速さも、もうない。
それでも向ける。
それが、王の在り方だと言わんばかりに。
俺は、その一撃を避けなかった。
剣で軽く横に流し、間合いへ踏み込む。
勇者技でもない。
スキルでも、魔法でも、そして聖剣でもない。
ただ、ここまで生き残ってきた剣を突き出し。
「……終わりだ、魔王アルバ」
一歩、踏み込む。
剣は、迷いなく魔王の胸を貫いた。
「……そう、か」
魔王の口から、息が漏れる。
怒りも、悔恨もない。
ただ、納得したような声音。
「どのような道であったとしても、選び続けた者が……最後に立つ、か」
魔王アルバ・レウスは、ゆっくりと崩れ落ちた。
「ただ...世界を保とうとした...我では...敵わなかった...か。」
それを最後に、魔王は動かなくなった。
折れた槍が、床に転がる。
王の象徴は、もうない。
玉座の間に静寂が戻る。
俺は剣を納め、深く息を吐いた。
魔王は、倒れた。平和が訪れる。
だがこれで終わりではない。世界はまだ、続いている。




