56 勇者は、魔王の武器の能力を見る
トリス・レギオンの刃が、淡く光った。
それは先端ではない。
破壊、創造、均衡を司る三叉のうち、左右に伸びる刃の一つ――創造を司る側だ。
魔王アルバ・レウスは、槍を軽く振る。
それだけで、空間が歪んだ。
空気が圧縮され、次の瞬間――
玉座の間の床に、いくつもの魔力の塊が落ちる。
ぼとり、ぼとりと。
粘性のある影のようなそれは、すぐに形を成した。
人型。
獣型。
不定形。
だが、どれも共通している。
中身がない。命の気配がない。
(……魔物、というより)
俺は剣を構え直す。
(魔力の塊か)
影の者の分身に近い。
だが、あれほどの圧はない。
魔王は、静かに告げた。
「創造とは、命を生むことではない」
魔物たちが、一斉にこちらを向く。
「必要な形を、必要な数だけ用意することだ」
次の瞬間。
魔物たちが、同時に動いた。
速い。
数も多い。
囲まれる。
だが――
(……問題ない)
俺は、最短距離で踏み込む。
一体。
一閃。
斬られた魔物は、悲鳴も上げずに霧散した。
次。
斜めから来る獣型を斬る。
同時に、背後の気配へ蹴り。
剣を引き、振り抜く。
また一体、消える。
(数で押すつもりか)
無駄はしない。
一体ずつ、確実に。
剣の軌道は乱れない。
呼吸も、集中も崩れない。
次々と魔物が消えていく。
魔王は、その様子をじっと見ていた。
止めない。
焦らない。
そして――
「……なるほど」
低く、納得した声。
「魔物では、もうお前は止まらぬか」
創造された魔物は、まだ残っている。
だが、魔王はもう興味を失ったようだった。
「戦う覚悟と、数を捌く経験」
槍を、持ち替える。
「それを積んだ勇者は、雑兵では削れぬ」
次の瞬間。
魔王は、創造の刃から魔力を引いた。
残された魔物たちが、動きを止める。
(……まさか)
俺がそう思った瞬間。
中央の刃――破壊を司る穂先が、眩く輝いた。
「ならば」
魔王は、ためらいなく言った。
「まとめて、消す」
槍が、振るわれる。
――衝撃。
いや、違う。
衝撃波だ。
空間そのものが、押し潰される。
「っ――!」
俺は慌てて障壁を張る。
だが、間に合わない。
衝撃波は、魔物たちを一瞬で飲み込んだ。
霧散すらしない。
存在ごと、砕かれる。
そしてそのまま、俺にも届く。
玉座の間が爆ぜた。
床が砕け、柱が折れ、天井から瓦礫が落ちる。
俺の体は、何かに叩きつけられ、宙を舞った。
「ぐ……っ!!」
視界が白くなる。
息が奪われる。
背中から壁に激突し、床に転がる。
障壁は、完全に砕けていた。
(……魔物ごと、かよ)
ためらいがない。
必要ないものは、切り捨てるという判断。
瓦礫の向こう。
魔王は、槍を肩に担いだまま、静かに立っていた。
「王とは、選ぶ者だ」
冷たい声。
「生かすものと、捨てるものをな」
俺は剣を支えに、なんとか立ち上がる。
全身が軋む。
完全回復したはずなのに、それでも重い。
(……正面からの力比べは、分が悪い)
はっきりとそう理解した。
魔王アルバ・レウスは、こちらを見下ろす。
「まだ折れぬか、勇者」
俺は、口角を上げた。
「……ああ」
息を吐く。
「王相手に、力比べだけで勝てるなんて思ってない」
剣を構え直す。
だが、視線は槍から離さない。
(残りは……均衡、か)
魔王が、再び槍を構える。
トリス・レギオンが、低く唸る。
戦いは――
さらに、深い段階へと進もうとしていた。




