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勇者召喚されたけど、勇者の結末はロクでもないのが相場なので疑ってかかってます~やだこの勇者全然言うことを聞いてくれない~  作者: ターシ


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53 勇者は、魔王を目にする


 通路を歩く。


 足音が、やけに大きく響いた。

 ここまで来て、もう隠す必要はない。


 血の匂い。壊れた床。

 四天王たちが倒れた痕跡。


 すべてを背にして、俺は進む。


 やがて、通路の突き当たり。

 巨大な扉の前まで来る。


 黒く、重く、禍々しい装飾。

 魔力が、これでもかというほど詰め込まれている。


(この先に……魔王がいる)


 影の者との戦いで、身体は限界だった。

 肩も、背中も、脇腹も、まだ痛む。


 それでも――

 不思議と、焦りはなかった。


(……わかってた)


 影の者は言っていた。


『影を使い、世界の裏を覗くことで、特殊条件を知った』と。


 そして俺も、あの影の空間に足を踏み入れた。

 絶対影域。世界の裏側。


 だからだろう。

 戦いが終わった直後から、頭の奥に『条件』が流れ込んできていた。


 俺は、玉座の間へ続く扉に手をかける。

 その瞬間だった。


 視界の端に、光が走る。

 いつもの見慣れた、あれ。

 ステータス表示。


─────────────────────────────────────

【特殊条件クリア】


【四天王をすべて撃破する】

【魔王のいる間へ向かう】

【以上を達成したため、スキル『完全回復』を取得しました】


【完全回復】

体力・魔力・状態異常など、あらゆるものを完全に回復させる。

※一度使用すると、30日間は使用不可能。

─────────────────────────────────────


「……やっぱり、か」


 思わず、息が漏れた。

 偶然じゃない。ご都合主義でもない。


 万全の状態で魔王と戦わせるための、世界からの救済措置。


 俺は、迷わなかった。


「完全回復、使用」


 瞬間――

 全身を、温かい光が包み込んだ。


 痛みが消える。

 疲労が抜ける。

 魔力が、満ちていく。


 傷が閉じ、血が止まり、呼吸が整う。

 さっきまでのボロボロが、嘘みたいだった。


「……万全、か」


 軽く拳を握る。

 問題ない。

 今なら、全力で戦える


 俺は巨大な扉を押し、重い音を立てて開いた。


 その先は――広かった。


 いや、ただ広いだけではない。

 空間そのものが、張り詰めている。


 高い天井。

 黒と深紅を基調にした石造りの柱。

 床には魔法陣が幾重にも刻まれ、淡く脈動するように魔力が流れている。


 装飾は豪奢だが、無駄がない。

 威圧ではなく、支配のための構造。


(……ここが、玉座の間)


 足を踏み入れた瞬間、理解した。


 この場所そのものが、魔王の領域だ。

 城の中心。魔族軍の中枢。


 そして――奥。


 階段状の壇上に、玉座があった。


 巨大で、黒く、禍々しい玉座。

 だが、そこから溢れる魔力は不思議なほど静かだった。


 荒々しさも、暴力性もない。

 ただ、圧倒的な存在感だけがある。


 俺は、自然と剣を握り直していた。


 万全の状態だ。

 体力も、魔力も、集中力も。


 それでも――


(……違うな)


 これまで戦ってきた四天王たちとは、明らかに違う。


 ヴァルゼインのような武の圧でもない。

 影の者のような絶望の支配でもない。


 ここにあるのは、もっと根本的なもの。


 ――王。


 玉座に座る、その存在。


 黒衣を纏い、長い影を床に落とす男。

 年齢はわからない。若くも見えるし、老いても見える。


 ただ一つ確かなのは――

 この城、この戦争、この世界の中心にいる存在だということ。


 魔王が、ゆっくりとこちらを見る。


 逃げ場はない。

 隠れる意味もない。


 俺は、まっすぐその視線を受け止めた。


 そして。


「――よく、ここまで来たな。勇者」


 低く、落ち着いた声。


 それだけだった。

 怒りも、嘲りも、驚きもない。


 ただ、事実を認めるような一言。


 その言葉と共に、確信する。


 魔王が、そこにはいた。


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