45 勇者は、決着をつける
剣がぶつかる。火花が散る。
もう技も型もない。
ただ斬る。ただ受ける。
息が荒い。
視界が滲む。
ヴァルゼインも同じだ。
鎧は砕け、片腕は動かない。
それでも奴は笑っている。
「はは……これだ……!心躍るな...!」
剣が頬を裂く。
俺の刃が奴の肩を抉る。
血が混ざる。
足元は瓦礫と焦土。
踏み込むたびに崩れる。
「終わらせるぞ...!」
「来い!」
同時に踏み込む。
剣と剣が噛み合う。
鍔迫り合い。
顔と顔が近い。
互いの荒い呼吸がかかる距離。
そのとき。
背後から、低い唸りが響いた。
嫌な音。
振り向かなくてもわかる。
ドラゴン。
まだ、生きている。
魔力が収束している。
何度も見た、ブレスの予兆。
――まずい。
俺は一瞬、思考した。
(ヴァルゼインが近くにいる。さすがにブレスは撃てないだろ)
今のままだと味方を巻き込む。
そんな真似は――
その瞬間。
ヴァルゼインが、わずかに笑った。
「構わん……!」
喉が潰れたような声。
「俺ごと……やれ……!!」
背筋が凍る。
「嘘だろ!?」
次の瞬間。
白熱。
視界が消える。
反射で障壁を張る。
極限まで圧縮。
自分の周囲、最小半径。
だが障壁を張ってもなお、襲い掛かる衝撃。
焼ける。
押し潰される。
肺の空気が抜ける。
地面に叩きつけられた。
耳鳴り。
世界が歪む。
やがて、静かになる。
煙の向こう。
ドラゴンは、動かない。
魔力の気配が消えている。
最後の力を使ったブレス。
完全に、尽きた。
そして。
数メートル先。
ヴァルゼインが、膝をついていた。
鎧は溶け、肌は焼け、呼吸は浅い。
俺も立てない。
剣を杖にして、なんとか立つ。
奴も同じだ。
二人とも、もう限界。
それでも。
歩く。
一歩。
一歩。
距離が縮まる。
お互い言葉を発さない。もう必要ない。
最後だ。
同時に踏み込む。
刃が走る。
――速い。
一瞬。ほんの一瞬。
ヴァルゼインの方が早い。
(やられる――)
ヴァルゼインの剣が俺を切り裂く。
奴の目が見開かれた。
「……勝っ――」
声が止まる。
手応えがない。当然だ。
俺は発動していた。
極小。
半径一歩にも満たない範囲。
ほんの刹那。
認識を歪ませる。
エルシアとの戦いで使った、あの切り札。
『不可視領域』
ヴァルゼインの斬撃は、俺を捉えたはずの軌道で空を切った。
その横、認識の死角。
俺は踏み込む。
渾身。
最後の一振り。
刃が、鎧の隙間を貫いた。
深く。
確実に。
ヴァルゼインの体が、止まる。
ゆっくりと、俺を見る。
「……そうか」
血を吐きながら、かすかに笑う。
「それが……お前の……」
言葉は最後まで続かない。
剣が手から落ちる。
巨体が、前のめりに崩れた。
静寂。
風が吹く。
焦げた城。
倒れたドラゴン。
動かない四天王。
俺は、その場に膝をついた。
剣を落とす。
もう、握れない。
空を見上げる。
夜明けが、わずかに白んでいた。
城は半壊。
壁は崩れ。
塔は折れ。
だが。
落ちていない。
俺は、かすれた声で呟く。
「……王なき時も、城は戦え」
そして。
俺は、城は、最後まで戦った。




