44 勇者は、兵器を使う
(……防衛装置に賭けるしかない!)
俺は横に跳び、壁際へと駆けた。
「逃げるか!」
ヴァルゼインが追いかけてくる。
違う。逃げじゃない。
ゴーレムの記録を頼りに、壁の一角へと行く。
わずかに色の違う石。
その、石に見せかけたレバーに手をかけ、引く。
動かない。
さらに力を込める。
ギリ、と重い感触。
(レバー重すぎ...!錆びてるのか!?)
その瞬間、ドラゴンの影が覆いかぶさる。
咄嗟に障壁を張る。
ブレスが直撃。
熱と衝撃で意識が飛びかける。
だが――レバーは離さない。
引き切る寸前。魔力を流し込む。
(レバーを『引いてる途中に魔力を流す』、それがバリスタ起動の条件!)
一瞬の静寂。
次の瞬間。
壁が内側から破裂した。
石片が吹き飛び、巨大な弩砲がせり出す。
「……何だと?」
ヴァルゼインの声。
照準は自動。
軋む音と共に、極太の魔力矢が装填される。
撃て。心で念じる。
轟音、白光
魔力の矢が一直線に空を裂いた。
直撃。
ドラゴンの咆哮が夜を震わせる。
翼を貫かれ、巨体が大きく傾ぐ。
──墜ちた。
中庭を揺らす衝撃。石畳が割れ、砂煙が舞う。
だが。
ドラゴンは死んでいない。
片翼を引きずりながらも、地に伏したまま口を開く。
ブレスが横薙ぎに走った。
「くっ……!」
瓦礫の陰に転がり込む。
熱風が背を舐める。
まだ終わっていない。
砂煙の中から、ヴァルゼインが現れる。
「面白い」
笑っている。
怒りではない。戦士の笑みだ。
そして踏み込んでくる。
速い...!
剣が迫る
なんとか受けるが、腕が痺れる。
押し切られるように後退しながら、石畳を探す。
――ここだ。
一歩踏む。
そして素早く二歩目。
その瞬間、足元へ魔力を流す。
地鳴り。
ヴァルゼインの眉がわずかに動いた。
(特定の石畳を2回踏み、魔力を流す!それが槍の起動法!)
次の瞬間。石畳が裂け、巨大な槍が突き上がる。
回避しきれない。
槍はヴァルゼインの右腕を貫いた。
「ぐ……ッ!」
血が飛ぶ。
片腕がだらりと落ちる。
だが倒れない。
剣を左手に持ち替える。
「なるほど……城そのものを使うか」
ドラゴンが再び咆哮する。
ブレスが溜まっている。
時間がない...!最後だ!
俺は中庭入口へと駆け、窪みに手を押し込む。
指先が鋭い石に裂かれ、血が流れる。
それでも構わない。
低く、しかしはっきりと、起動の合言葉を唱える。
「――王なき時も、城は戦え!」
それは、王が脱出した後に、残った兵たちが戦うために作られた、大砲兵器。
静寂。そして。
石像の目が光る。
歯車が回る。
地の底から響く轟音。
それを確認した俺は、照準を握る。
標的は――二体。
ヴァルゼインが走る。
止めに来る。
だが間に合わない。こちらの方が早い。
魔力を叩き込む。
閃光、爆発。
世界が白に染まる。
衝撃波が中庭を薙ぎ払った。
瓦礫が舞い、壁が崩れる。
やがて、煙がゆっくりと晴れていく。
ドラゴンは動かない。
翼は焼け落ち、巨体は地に伏したままだ。
生きてはいるようだ。だが、戦えない。
そして、煙の向こう。
一つ、立っている影。
鎧は砕け、血が流れ、片腕は使えない。
それでも、剣を握っている。
「……見事だ」
ヴァルゼインが、ゆっくりと歩み出る。
「元々人間の城だったゆえに、か。...だが、城はもう沈黙した」
確かに、防衛装置は沈黙している。
使い切った。
残るのは、俺と、奴。
静かな中庭。
焦げた石の匂い。
ヴァルゼインが剣を構える。
「ここからは……一対一だ」
俺も剣を握り直す。
心臓の音が、やけに大きい。
逃げ場はない。
策も、もうない。
ただ、斬るだけだ。
――次の瞬間。
俺たちは同時に踏み込んだ。




