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勇者召喚されたけど、勇者の結末はロクでもないのが相場なので疑ってかかってます~やだこの勇者全然言うことを聞いてくれない~  作者: ターシ


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43 勇者は、絶望的な戦力差を味わう


 ――無理だ。


 戦闘が始まって、そう判断するまでに時間はかからなかった。


 ヴァルゼインが前に出る。

 それだけで、中庭の空気が変わる。


 剣を振るう気配。

 踏み込みの一歩。

 どれもが、前回より明らかに速く、重い。

 最初からフルパワーで来ている。


(くそ……っ)


 俺は剣で受けるが、衝撃が腕から肩、背骨まで一直線に突き抜ける。

 足元の石畳が砕け、踏ん張った脚が沈み込む。


 間髪入れず、背後から轟音。


「――来る!」


 振り返る暇もない。

 俺は地面を蹴って横へ跳ぶ。


 次の瞬間、ドラゴンのブレスが中庭を薙ぎ払った。


 炎ではない。

 圧縮された高熱の魔力そのもの。


 噴水跡も、石像も、壁の一部さえも溶け、吹き飛ぶ。


(直撃したら、終わりだ)


 着地と同時に転がり、即座に立ち上がる。


 だが、逃げ場は狭い。


 上空にはドラゴン。

 正面にはヴァルゼイン。


 完全な挟撃。


「どうした、勇者!」


 ヴァルゼインが笑う。


「前より動きがいいじゃないか。だが――」


 剣が、振るわれる。


 俺は受ける。

 受けた瞬間、分かる。


(重っ……!)


 純粋な膂力。

 技術じゃない、押し潰す力。


 覚醒と英雄で強化された俺でも、真正面では押し負ける。

 こいつのフルパワーはそれだけ威力がある。


 空気を切り裂く音。

 ドラゴンの尾が横薙ぎに迫る。


「っ!」


 咄嗟に跳ぶが、完全には避けきれない。

 衝撃が横腹を掠め、身体が宙を舞う。


 石畳に叩きつけられ、息が詰まる。


(……やばい)


 すぐに起き上がろうとするが、視界が揺れる。


 ヴァルゼインは待たない。

 容赦なく距離を詰めてくる。


 その背後で、ドラゴンが再び息を吸い込む。


(同時は……無理だ)


 剣でヴァルゼインを捌きながら、ドラゴンの攻撃を警戒する。

 そんな芸当、できる相手じゃない。


 実際、次の瞬間にはもう破綻する。


 剣戟に集中した隙を突かれ、ブレスの余波が背中を叩いた。


「ぐっ……!」


 転がり、壁に背を打ちつける。

 肺から空気が抜け、喉が焼ける。


 ヴァルゼインのフルパワーは、繊細な動きが乱れている。

 だがそこを付け入ろうにも、ドラゴンがそれを許してくれない。

 いや、それがわかっているからこそ、ヴァルゼインは最初から全力で来ているのだろう。


(さすがに……このままじゃだめだ)


 初めて、はっきりと思った。


 一対一なら、まだ戦えた。

 だが、この二体同時は、戦力差が露骨すぎる。


 ヴァルゼインが、少しだけ目を細める。


「どうした。動きが鈍ったぞ」

「……やっぱニ対一は反則だろ」


 絞り出すように言うと、彼は低く笑った。


「戦争に反則はない」


 その通りだ。


 ここは魔王城。

 俺は侵入者で、敵だ。


(このままじゃ……押し切られる)


 撤退?

 無理だ。逃げ道は空からも地上からも塞がれている。


 その時だった。

 ――脳裏を、掠める記憶。


(……ゴーレムの記録)


 地下で見た記録。

 古い城の設計図。


(この場所……確か)


 俺は必死に思い出す。


 人間同士が戦争をしていた時代。

 城は「攻められる前提」で作られていた。


(防衛装置……)


 壁の内部。

 床下。

 使われなくなった、古い兵器。


(大砲、バリスタ、壁槍……)


 ヴァルゼインが、再び剣を振り上げる。

 ドラゴンが、上空で旋回する。


(……使えるかもしれない)


 確信はない。

 だが、他に手はない。


(このままじゃ、確実に負ける)


 俺は、歯を食いしばる。


(だったら――賭けるしかないだろ)


 古い防衛装置に。


 人間が、人間のために作った、過去の遺物に。


 次の一手を考えながら、俺は再び剣を構えた。


 ――時間は、ほとんど残っていない。


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