第4話 勇者は、無料を信用しない
「旅立ちの準備として、王宮にある物資は好きに使ってくれて構わない」
王様はそう言って、穏やかに微笑んだ。
「遠慮はいらぬ。勇者様のためのものだ」
(“好きに使っていい”ほど怖い言葉はないんだけど……)
内心でそう呟きながら、王宮の倉庫へ案内されていた。
壁一面に並ぶ武器、防具、道具。
どれも一級品なのは、素人目にも分かる。
「こちらが武器庫です」
神官が胸を張る。
「歴代勇者も、ここから装備を選びました」
(歴代勇者、ね……)
話を聞きながらさりげなくステータスを操作。
【スキル:《鑑定》を取得しました】
派手な演出はない。
ただ、視界の端に俺が求めている簡潔な情報が浮かぶ。
――呪い:なし
――追跡魔法:なし
――位置発信:なし
(……よし、仕掛けはなさそうだ。)
内心で安堵しつつ、何食わぬ顔で剣を手に取る。
「ずいぶん、念入りに確認なさいますね」
神官が感心したように言った。
「装備の性質を理解してから選ぶとは……」
「まあ……念のためです」
(念のためどころか、生死に関わるからな)
結局、目立たない剣と盾、それに動きやすい服を選選んだ。
きらびやかな鎧や装飾品には、一切手を伸ばさない。
「それだけでよろしいのですか?」
「はい」
次に通されたのは、食料庫だった。
「保存食も、十分に用意しております」
干し肉、乾パン、乾燥果物。
必要最低限を選び、袋に詰める。
(……よし)
一通り揃えたところで、ふと立ち止まる。
「……あの」
「はい?」
「これ、料金表を作ってもらえますか?」
一瞬、空気が止まった。
「……料金表、ですか?」
神官が聞き返す。
「はい。持ち出す物資の分です」
「勇者様?」
神官は困惑したように首を傾げる。
「これらは、勇者様のために――」
「後で、返します」
俺は真顔で言った。
(魔王討伐後に“あれは国の財産だ”とか言われたら、たまったもんじゃない)
もちろん、そんな本音は口にせずにそれっぽいことを言う。
「一応、きちんとしておきたくて」
沈黙。
数秒後――
「……なんと、律儀な」
神官が、感極まったように呟いた。
「世界の危機であろうとも、対価を支払う姿勢……!」
(いや、難癖回避だけどね)
「勇者様は、責任というものをよく理解しておられる……」
(……なんか、勝手に解釈していないか?)
そうして神官は丁寧に料金表を作ってくれた。鑑定で確認した相場としっかり一致している。
「では、こちらに記載した額を……」
「魔王を倒した後に、まとめて払います」
「承知しました!」
やけに晴れやかな返事だった。
(……本当に払わせる気、あるのか?)
準備が整い、王宮の正門前。
出立前、最後の確認の場で神官が言う。
「ところで勇者様。まず村へ向かわれるとのことですが……」
「はい」
「魔王城へ向かうのではなくですか?」
俺は少しだけ言葉を選んだ。
「たしかに、国はいくつも滅びています。ですが、他国と連携して、現在は進行を食い止めているとも聞きました。」
これは先ほどの説明で聞いた話だ。
「いきなり魔王城へ向かって、もし自分が失敗すれば――その時点で希望は潰えます。それだけは、避けたい」
「……確かに」
神官は深く頷いた。
というかこの人たちは、俺が即戦力の「戦う勇者」だという前提が抜けきらないでいる。
こちとら普通の高校生だぞ?
剣なんて振ったこともない。
ステータスが高いからって、いきなり魔王城はさすがに無理だって。
こういうのは、まず近場の村でレベリングと動作確認。
そう相場は決まっている。
「だからこそ、まずは付近の村の様子を、この目で確認したいんです。補給や情報も必要ですから」
「なるほど……」
神官の目が、さらに輝いた。
「現状を正確に把握した上で行動なさるとは……!」
(よし、納得してくれたな。)
そして俺は軽く会釈し、王宮を後にした。
王宮の近くは、まだ活気がある。
人々の往来も多く、商人の呼び声も聞こえる。
だが、そこから離れるにつれて、石畳はところどころ傷み、
道端には使われなくなった荷車が転がっていた。
さらに進むと、ぽつりぽつりと、避難民らしき人影が見え始める。
「……」
(話は本当だったみたいだな)
世界は、確かにピンチだ。
だからこそ――
「まずは、村だ」
俺は地図を確認し、目的地を定めた。
疑いを抱えたまま。
だが、誰よりも慎重に。
今日中に7話まで投稿します。




