第3話 勇者は、生き延びる準備しかしない
「では、どのようなスキルを取得なさいますか?」
神官の問いかけに、俺はステータスウィンドウを睨んでいた。
(派手なのを取ったら終わりだな……「この勇者は前に出る」って勇者らしい前提を作られる)
《勇者剣術》《聖属性魔法》《勇者のカリスマ》
いかにも“勇者用”といったスキルが、目立つ位置に並んでいる。
だが、その少し下。
「……これで」
俺は、指を伸ばした。
【《気配遮断》を取得しました】
「……」
「……?」
部屋が、静まり返った。
神官が瞬きをする。
「えっと……勇者様?」
「はい」
「それは、敵に気付かれにくくなるスキルですが……」
「ええ。便利ですよね」
「……はい?」
神官が首を傾げる。
「まず最初に取るものではない、という意味なのですが……」
「そうですか?」
俺は首を傾げ返した。
(生き延びるには一番必要だろ)
神官が咳払いをする。
「では……次は?」
「次も、これで」
【《索敵》を取得しました】
「……」
「……」
今度は、さっきより長い沈黙が落ちた。
「勇者様」
大臣が、慎重に言葉を選ぶように口を開く。
「前に出て戦う勇者であれば、攻撃系を――」
「敵の位置が分からなければ、戦えませんよね?」
「……確かに」
(よし、論破)
俺は内心で小さくガッツポーズをした。
【《危険察知》を取得しました】
【《罠感知》を取得しました】
「……」
神官が、額に手を当てる。
「勇者様……まるで斥候のような構成ですが……」
「そうですね」
「……」
大臣が、ふっと息を吐いた。
「いや……待て」
そして、何かに気付いたように顔を上げる。
「これは……前線に出る前に、生存率を極限まで高める構成……!」
「……!」
神官の目が、見開かれた。
「最初から魔王と戦うだけのことを考えているのではなく……」
「世界を広く見渡し、状況を把握し……」
「確実に勝てる時まで、決して前に出ない……」
(いや、単に怖いだけなんだが)
【《撤退行動補助》を取得しました】
沈黙。
そして――
「……素晴らしい」
王様が、ぽつりと言った。
「歴代勇者とは、まったく違う」
(褒められてる……よな?)
「勇者様は、“勝つため”ではなく“負けないため”に力を使うのですね」
「……まあ、そんな感じです」
(死にたくないだけです)
神官が、最後に確認するように聞いてくる。
「では……《聖剣適性》は?」
「今は、取りません」
「……!」
大臣が息を呑んだ。
「聖剣を……否定なさるのですか?」
「否定はしていません」
俺は首を振る。
「頼り切りになるのが、危険だと思っているだけです」
(どんな仕掛けがされてるかわかったもんじゃないからな)
沈黙。
数秒後――
「……聖剣を、最後まで切り札として温存する」
大臣が、重々しく頷いた。
「実に、慎重……!」
(いや違うけどね)
「勇者様」
王様が、穏やかに微笑む。
「準備が整い次第、護衛を――」
「一人で行きます」
即答した。
「護衛を連れていると、魔王軍に勇者の動向がバレてしまう恐れがあります。」
また、空気が止まる。
(今度こそ止められるか……?)
「……なるほど」
王様は、ゆっくり頷いた。
「勇者様がそう望まれるなら」
(止めないんだ……)
俺は、静かに息を吐いた。
(……なんか、勝手に納得していないか?)
こうして俺は――
“誰の言うことも聞かない勇者”として、旅立つ準備を整えるのだった。
今日中に7話まで投稿します。




