24 勇者は、四天王と戦う
ヴァルゼインがただ前に出るだけで、空気が押し潰されるような圧がある。
そこから振るわれる強力な一撃。
正面から受け止めるも、とんでもない重さだ。
「どうした、勇者。動きが鈍いぞ」
余裕を含んだ声。だがその足運びは無駄がなく、間合いに踏み込む一歩一歩が的確だった。
まともに受けないように剣を受け流しながら、わずかに眉をひそめる。
(強い。でも――)
魔力の流れが、見える。
いや、見えすぎる。
(綺麗すぎるんだよ、この人)
無駄がない。淀みがない。洗練されすぎている。
だからこそ、俺は小さく魔力を差し込んだ。
すると一瞬。
ヴァルゼインの剣の軌道が、ほんの指一本分だけずれた。
「……?」
剣が空を切る。
俺は即座に距離を取った。
(やっぱり点でなら効く。)
スキル『魔力干渉』
相手の魔力に干渉して邪魔をするスキル。
完全に打ち消すのは相当な実力差が必要となる。だが相手の魔力の流れが綺麗ならば、ほんの一瞬妨害する程度ならできる。
斬撃の瞬間、踏み込みの直前、魔法を組み上げる刹那。
ほんの一拍、魔力の流れを乱すだけでいい。
「小癪な真似を……!」
ヴァルゼインの声に、初めて苛立ちが混じった。
そして次の瞬間、その魔力が膨れ上がる。
「魔力に干渉しているのか。ならば邪魔をされるなら――」
地面が鳴る。
魔力の奔流が、全身を包み込んだ。
「邪魔されても関係ないほど、力を込めればいい」
踏み込み。
今度は、干渉が追いつかない。
(脳筋かよ!?)
内心で突っ込みながら、必死にかわす。
速度も威力も先程とは段違いだ。小手先の妨害など、誤差にすらならない。
脳筋ではあるが、確かに有効ではあった。
かわして、受け流している内に段々と俺の魔力が減ってくる。やつも身体強化で相当な魔力を使っているはずだが、まだ余裕はありそうだ。
「どうした! もう限界か!」
ヴァルゼインが笑いながらそう言う。
たしかにやつから見たら俺の魔力は減っていき、動きも少しずつ鈍くなっているだろう。
だが――。
(限界? 違う)
俺は足元に、そっと魔力を流し続けていた。
地面へ。石へ。見えないほど少しずつ。
(最初から正面戦闘で全部使うつもりなんてない)
ヴァルゼインが気づいたときには、遅かった。
「……待て。地面に、魔力を?」
俺は剣を構えたまま、静かに息を吸う。
「土魔法。応用だけどね」
次の瞬間、大地がうねった。
地面が割れ、土砂が奔流となって四天王へ襲いかかる。
無数の石礫が、嵐のように舞い上がった。
「小賢しい!」
ヴァルゼインは吠え、突進する。
拳で石を砕き、剣で土砂に穴を開け、力だけで押し通る。
だがそのたびに、魔力が削られていく。
(効いてる……でも、倒せない)
互いに消耗し、息が荒くなる。
そのときだった。
周囲から、ざわりとした気配が押し寄せる。
魔物の群れだ。それも、使役魔物ではない。
自然魔物が、この戦闘に引き寄せられている。
「……チッ」
四天王が舌打ちする。
「邪魔が入るな。今回はここまでだ。」
剣を下ろし、俺を睨む。
「覚えておけ、勇者。俺と互角の程度では魔王様はおろか――」
ヴァルゼインは一瞬笑って、言葉を続ける。
「影の者にすら勝てん」
「影の者?」
なんだそれは。厨二のアダ名か?
「『絶望』を司る、四天王最強だ。単純な武では俺が上だが……魔法や能力を含めた実戦では、俺より遥かに強い」
出たよ四天王最強。じゃあまさかこいつは四天王最弱なのか?
だとしたらちょっと計算が狂うな...この強さで最弱だとしたら...
「貴様の小細工も、影の者の前では果たしてどうかな?見ものだな。」
そう言い残し、四天王は闇に溶けるように去っていった。
俺は大きく息を吐く。
(……引き分け、か)
魔物の気配を感じながら、剣を鞘に収めた。
(次は、もっと厄介そうだな)
夜の魔族領に、静寂が戻っていった。




